横浜の山手英学院で英語を教えていた東大生には、英文学科出身の沢崎順之助や小池滋(ともに後に東京都立大教授)がいたことはすでに述べた。
彼らは1953(昭和28)年頃に同学院に非常勤講師として採用されたのだが、公募によるもので、一次は筆記試験、二次が面接だったという。
さて、いよいよ伊藤和夫著『新英文解釈体系』の本文に入ろう。
ただし、急ぎの仕事を大量に抱えており、今回はわずかの紹介にとどまることをお許し頂きたい。
分量は「わずか」ではあるが、内容は重要である。
本書を貫く、基本原理が展開されているからだ。
本書を貫く、基本原理が展開されているからだ。
このように、伊藤は「はじめに」の冒頭で、英文を読むための要件は(1)S+V+X つまり「S, V, O及びCが作り出す文の骨格の適確な把握」と、(2)M+H つまり「修飾語と被修飾語の関係を正しく理解すること」のたった2つであると説く。
どんなに複雑な文章でも「わずか2つの原理の複雑な組みあわせにすぎない」として切りさばいていく。
こうして、『新英文解釈体系』の1~4章は文の基本構造の問題、5~7章が修飾・被修飾の問題、8~10章が両者に共通ないし組みあわせから生じる問題を扱っている。
このように、もっとも基本的で単純な要素である「主語+動詞」から始まり、だんだん複雑な構文へと展開されていく。
こうした叙述の方法は、ヘーゲルの『論理学』やマルクスの『資本論』を想起させる。
いかにも哲学科出身の伊藤らしい。
こうした叙述の方法は、ヘーゲルの『論理学』やマルクスの『資本論』を想起させる。
いかにも哲学科出身の伊藤らしい。
3ページ後半の文章がもつ迫力はどうだろう!
「この2つの原理を組みあわせるだけで人間のもつ思想・感情のすべてを表現することが可能なのである。これは、まことに驚嘆すべきことといわねばならない。」
若き哲学者の思考力で、複雑かつ多様な英文の基本原理(たった2つ!)を解明し、それを体系的に叙述できることへの、ほとんど自己陶酔に近い精神の高揚感を感じる。
これが後に、二日酔いのような自己嫌悪と自己批判を招くのだが。
(つづく)