希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

日本英語教育史研究の歩みと展望(4)

12月2日に和歌山県有田市で開催された「和歌山県教育のつどい」全体集会では、雨宮処凛さんの生き様や社会活動への熱い思いを聞くことができて感激しました。

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しかも、会場で『ドキュメント 雨宮☆革命』創出版)をゲットし、雨宮さんにサインしてもらいました!
けっこうミーハーでしょう・・・(^_^;)

で、翌3日は有田中央高校で開催された外国語分科会でみっちり勉強。
僕が大学院で教えた佐々木敏光さん(海南高校)や三岩晶子(日高高校)さんもレポーターとして頑張っておられ、久しぶりの交流を楽しみました。

僕は「研究協力者」兼レポーターで、「英語科における協同学習の導入と成果」と題して発表しました。たくさん御質問もいただき、関心を持っていただいたようです。和歌山県内にもぜひ協同学習を広げたいです。

そうそう、県立南部(みなべ)高校で「学びの共同体」に取り組んでおられる国語科の3人の先生たちとも昼休みに交流できました。すばらしい実践をされています。ぜひ同校にお邪魔したいと思いました。

さて、お待たせしました。連載の続きです。

日本英語教育史研究の歩みと展望(4)

3 1980年代以降の英語教育史研究

(2)地方英語教育史の研究

 1980年代以降は地方英語教育史(英学史を含む)の研究も大きく前進した。主な成果を単行本に限って年代順に列挙すれば、田中啓介編『熊本英学史』(本邦書籍、1985)、長谷川誠一『函館英学史研究』(ニューカレントインターナショナル、1986)、井上能孝『箱館英学事始め』北海道新聞社、1987)、松野良寅『東北の長崎―米沢洋学の系譜』(私家版、1988)、松野良寅『会津の英学』(歴史春秋社、1991)、外山敏雄『札幌農学校と英語教育―英学史研究の視点から』思文閣出版、1992)などが挙げられる。

 なかでも、寺田芳徳の精緻な研究『日本英学発達史の基礎研究―庄原英学校、萩藩の英学および慶應義塾を中心に』渓水社、1999)が異彩を放っている。広島県の「山間の僻地」にある庄原英語学校に焦点を当て、地方民衆にまで及ぶ近代日本の生きた英学受容史が解明された意義は大きい。
なお、庄原英語学校についてはその後も研究が続けられ、同校設立125年記念事業の一環として、馬本勉・武田祐三『庄原英語学校の歴史と英語教育』庄原市教育委員会、2009)が刊行されている。

 この他、日本における英語教育の発端となったフェートン号事件(1808)に関しては、松竹秀雄『英艦フェートン号事件(1993)が「海の長崎学Ⅱ」として地元長崎のくさの書店から刊行された。

 2000年代の研究では、北原かな子の『洋学受容と地方の近代―津軽東奥義塾を中心に』(岩田書店、2002)が特筆に値する。これは、1872年に津軽弘前に開講したミッション系の私立東奥義塾に視点を据えて、明治前期の地方における英学受容と近代化のプロセスを、米国側資料も活用しながら描いた力作である。

 沖縄に関しては、上原義徳氏の博士論文(広島大学提出)の「沖縄の英語教育史研究 : 明治期から戦後復帰までの普通中等学校の英語科教育課程の変遷を中心に」(2008)が特筆に値する。刊行されることを期待したい。

 沖縄に関しては他に、大内義徳「戦後の沖縄における英語教育」(日本英語教育史研究10号、1995)、下地玄毅「戦後沖縄の英語教育史概観」(沖縄キリスト教短期大学紀要30号、2001)、 宮永 孝「琉球における英学発達小史」(社会志林 59(1)、2012)、村田典枝「戦後初期沖縄におけるガリ版刷り初等学校英語教科書の研究」(日本英語教育史研究27号、2012)などがある。

 佐光昭二『阿波洋学史の研究』徳島県教育印刷、2007)は、四国徳島(阿波)地方を定点観測場所として、江戸時代から近代までの洋学(蘭・英・仏・独・伊など)との関わりを研究した800頁を超すライフワークで、井上十吉などの英学者、洋行者、来徳外国人、学校史などを実に丹念に描いている。

 以上のように、地方英語教育史の分野では、近年きわめてレベルの高い研究成果が発表されてきた。それらをネットワークで結ぶことによって相互比較し、日本英語教育史の全体像をさらに精緻なものにしていくことが期待される。そのためにも、対象地域の拡大が必要である。

(3)人物誌的な研究

 1980年代には、田島伸悟『英語名人 河村重治郎』三省堂、1983)が、卓越した英語教育者であり『クラウン英和辞典』の編纂者だった河村の足跡を描いた。

 90年代に入ると、音声重視の教授法を提唱して1920ー30年代の日本の英語教育改革に献身したパーマーに関する優れた研究書が相次いで刊行された。小篠敏明『Harold E. Palmerの英語教授法に関する研究―日本における展開を中心として』第一学習社、1995)と、伊村元道『パーマーと日本の英語教育』(大修館書店、1997)である。

 この他、笠原勝朗『昭和を彩った英文学者たちー生涯と書誌』沖積舎、1996)は、福原麟太郎中野好夫、金子健2、喜安璡太郎など17人の伝記・年譜・著書一覧・書誌を集めた労作である。

 明治前期の英語教育者である尺振八については、子孫の尺次郎が『英学の先達尺振八―幕末・明治をさきがける』(私家版、1996)を著した。

 論文では、伊村元道「伊藤健三の生涯と業績」『日本英語教育史研究』第13号(1998)、竹中龍範「岡内半蔵のこと」『英学史研究』第32号(1999)などの優れた研究がある。

 2000年代に入ると、川島幸希『英語教師夏目漱石(新潮社、2000)、大村喜吉『漱石と英語』(本の友社、2000)、堀孝彦『英学と堀達之助』(雄松堂、2001)、八木功『島崎藤村と英語』(双文社出版、2002)、半田礼子・米山美保子『勝部貫一(其楽):出雲・英語教育の先駆者』出雲市・発行、2002)、東博通『北の街の英語教師―浜林生之助の生涯』(開拓社、2007)などの精緻な研究が発表されている。

また、伊達一雄『インターネットで祖父の半生を追跡したー英語教授小久保定之助伝』(私家版、2005)は、その名の通りインターネット経由で集めた情報をもとに執筆された伝記で、斬新な調査手法が新たな可能性を示唆している。

圧巻なのは、吉村和嘉『かかる師ありき 恩師・江本茂夫傳』(私家版、2008)である。
陸軍士官学校の英語教官であり、オーラル・メソッドによる「マシンガンスピーチ」で名を馳せた江本茂の詳細な評伝で、実に1770頁におよぶ大著(定価2万円)である。
目下のところ、英語教育史の分野では最も詳細な伝記的研究といえよう。

石井容子熊本洋学校教師 Capt. L. L. Janes 研究―足跡と功績―』(佑啓堂,2013)は博士論文だけあって抜きん出て精緻な研究である。

こうした人物研究は着実に増えていくだろうから、今後は人物誌のデータベース化が期待される。

(つづく)