希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

教育再生会議の第三次提言案:TOEFL一辺倒の後退?

政府の教育再生実行会議(座長・鎌田薫早大総長)が、5月22日、グローバル化への対応や大学改革などについての第三次提言案をまとめました。


自民党のほうは「教育再生実行本部」(代表・遠藤利明衆議院議員)であり、こちらの「教育再生実行会議」は、「内閣総理大臣内閣官房長官及び文部科学大臣教育再生担当大臣並びに有識者により構成し、内閣総理大臣が開催する」会議です。

ということで、自民党の「提言」を相手する段階から、いよいよ政府・教育再生実行会議の方針を相手にする段階に入りました。

なので、お別れに(?)、5月1日の朝日新聞で私と論争した遠藤利明議員の発言内容について、先ごろ発売された『週刊朝日』が、とても面白いコラムを載せていますので、ご紹介します。

早稲田大学池田清彦教授によるコラムで、タイトルは「大学受験にTOEFL導入の茶番を笑う」というものです。

ネット上では、「英語できない議員がTOEFL推進 池田教授あきれる」というタイトルで紹介されています。


特に、最後の文章が最高にセンスいいです。

「教育のやり方を変えれば自動的に英語ができるようになるということはあり得ない。学校など行かなくともその気になれば独学で英語ぐらい喋れるようになるさ。それに英語など喋れなくとも衆議院議員が務まることは遠藤議員自らが証明しているわけだから、日本で暮らすのに英語は不要ではないですか。

 もしかしたら、TPPに参加して、将来の日本は今以上にアメリカの植民地になるのだから、植民地で働く労働者は英語ぐらいできないと雇ってもらえないよ、との親切心で言っているのかもしれない。わかったぞ。英語のできない日本人は、労働者にならずに衆議院議員になればいいってことだな。」

で、遠藤議員とはサヨナラ。

さて、5月23日のマスコミ各紙は、政府「実行会議」の最終的な提言案を取り上げています。

中でもマスコミが注目しているのが、小学校英語の教科化・実施年齢の引き下げです。

その「提言案」は現時点では公開されていませんが、内容は「実行会議」のサイトからわかります。


5月22日の第8回会議の配付資料「これからの大学教育等の在り方について(第三次提言素案)」が載っています。

その冒頭の「1.グローバル化に対応した教育環境づくりを進める。」では、「②意欲と能力のある全ての学生の留学実現に向け、日本人留学生を12 万人に倍増し、外国人留学生を30 万人に増やす。」という目標が掲げられています。

問題の「大学入試にTOEFL」は、その中で次のように方針化されています。

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○ 大学は、大学入試や卒業認定におけるTOEFL等の外部検定試験の活用、英語による教育プログラム実施等の取組を進め、学生に実践的英語力を習得させ、海外留学に結びつける。外部検定試験については、大学や学生の多様性を踏まえて活用するものとする。また、英語力の優秀な学生には更なる語学の習得も重要であり、例えば、東アジアにおけるグローバル化への対応として、実践的中国語等の習得を目指すことなども有用である。
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私が注目したのは、自民党「提言」よりもマイルドになっている点でした。

私たちが、ある程度は押し返したのではないかと思います。

というのは、自民党案になかった「外部検定試験については、大学や学生の多様性を踏まえて活用するものとする。」としています。つまり、難易度の高いTOEFLを全員に押し付けるものではない、というニュアンスです。

また、私たちは英語一辺倒主義を批判してきましたが、「実践的中国語等の習得」などという方針も入っています。

こうした変化の背景には、同実行会議内で、自民党「提言」に異論が出されていたからです。

たとえば、5月8日に開催された第7回会議の議事録「大学教育・グローバル人材育成についての委員の主な意見」には、次のような意見が紹介されています。

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○ 「TOEFLを大学入試に導入」という提言については、TOEFLが、各段に難易度が高く大学入試で実力差が測定しにくいこと、受験料が高額であり「公平性」の問題があること、テスト設計が異なるため学校の英語教育が形骸化する恐れがあることから、「国産の英語力検定試験」を開発し、大学が選択できるようにすべき。(議事録4ページ冒頭)
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手前ミソかもしれませんが、この意見は、私が朝日新聞5月1日号の遠藤議員との論争や、本ブログで主張してきたこととほぼ同じ見解です。「うれしいパクリ」といった感じです。

政府・実行会議の第三次提言素案では、「③初等中等教育段階からグローバル化に対応した教育を充実する。」で、「小学校の英語学習の抜本的拡充(実施学年の早期化、指導時間増、教科化、専任教員配置等)」や「中学校における英語による英語授業の実施」などの危険な方針が盛り込まれています。

しかし、私たちが特に危険視した以下の方針は盛り込まれていないようです(あくまで現在公開されている「第三次提言素案」においてですが。)

○ 世界レベルの教育・研究を担う30程度の大学の卒業要件はTOEFL iBT 90点相当とする。

○ 高校ではTOEFL iBT 45点(英検2級)等以上を全員が達成する。

もちろん、まだ予断は許しません。
また、政府・実行会議の方針もきわめて危険な内容を含んでいます。

しかし、私たちがしっかり声を上げ、証拠を添えて不合理さを追及していけば、ある程度は押し戻せるのではないでしょうか。

気を抜かず、頑張りましょう!