希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

安倍政権下の英語教育日誌2(2013年7月~9月)

(前回の続きです)

2013年6月、和歌山英語教育研究会は稲岡章代先生(姫路市賢明女子学院中・高校)をお招きしました。

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7月 学会・講演会で英語教育政策に賛否両論

7月14・15日 第13回小学校英語教育学会沖縄大会が琉球大学で開催された。

基調講演は新里眞男氏の「小学校英語教育の課題と展望:次期学習指導要領改訂を念頭において」、特別講演は本名信行氏の「アジア諸国小学校英語教育:現状と展望」で、他にシンポジウム、公開授業(ビデオ)と授業研究会、自由研究発表が続いた。

7月14日 大学入試へのTOEFL等の導入、小学校英語の早期化・教科化、英語による授業などに反対する講演集会「英語教育、迫り来る破綻――みんなで考え、行動しよう!」が、東京の郁文館夢学園で開催され、大津由紀雄・鳥飼玖美子・斎藤兆史・江利川春雄の4人が登壇、全国から約250人が参加した(内容については『新英語教育』2013年10月号掲載の田島久士氏のルポ参照)。

なお、講演に先立ち『英語教育、迫り来る破綻』(ひつじ書房)が刊行された。

7月27日 語学教育研究所の創立90周年記念特別講座「英語の授業は英語で:中学でも高校でも」が神奈川県民ホールで開催された。

発表者は安西深雪氏(藤沢市立村岡中)と四方雅之氏(成蹊中・高校)など。

同講座は8月18日には埼玉教育会館で開催され、淡路佳昌氏(東京学芸大附属世田谷中)の講演など。

政府が中学校でも英語の授業は英語で行うべきとの方針を提示するなか、両会とも満員の盛況だった。


8月 入試制度改革案に3学会が合同意見書

8月5・12日付の日本教育新聞は、小学校英語の教科化に対する市区町村教育長へのアンケート調査結果を掲載した。

「できるだけ早く実現させるべき」との回答が20.9%だったのに対し、「時間をかけて検討すべき」が74.9%に達し、「反対」も3.7%あった(無回答0.5%)。

慎重意見が圧倒的に多かった理由として、教員研修体制、カリキュラム整備、他教科の時数削減との調整、児童の意欲低下への危惧などが出された。

調査は同年7月に実施され、187人から回答があった。

8月8日 外国語教育メディア学会は総会で「教育再生実行会議で提案された大学入試制度(英語)の改革についての意見書/アピール」(京都アピール)を採択した。

これは、全国英語教育学会(総会承認8月10日)および大学英語教育学会(理事会承認8月29日)との3者合同で作成したもの。

全国規模の英語教育学会が合同アピールを発表するのは異例なことだ。

TOEFL等の外部検定試験導入については、日本人高校生の英語能力を正しく測定できるかの検証が必要と主張した。

まず現行の大学入試センター試験(外国語)を4技能統合型テストへと移行させ、次いで学習指導要領の内容と学生の英語力レベルを考慮した4技能テストを国が主導して開発・導入すべきことなどを提言した(『英語教育』2013年11月号参照)。

8月10・11日 全国英語教育学会第39回研究大会が札幌市の北星学園大学で開催され、約700名が参加した。

特別講演は白井恭弘氏(ピッツバーグ大)による「外国語学習の科学:SLAの知見をいかに英語教育に生かすか」。
シンポジウム「日本の英語教育の将来:小中高における英語教育実践と研究の接点を探る」など。

8月21日 文部科学省は「学修環境充実のための学術情報基盤の整備について」を公表した。

「アクティブ・ラーニング(能動的学修)の推進により、各教科の内容だけでなく、情報リテラシーやICTリテラシーのほか、批判的思考、問題解決力が身に付き、コラボレーションやチームワークと言った21世紀を生き抜いていく力が養われる」として、基盤整備と教員の意識改革等を提言した。

8月28日 民間の英会話教室や学校などで英語を学び始める時期が早まっている実態を朝日新聞が報じた。

全国学力調査の結果、小6生の66.8%が「小4まで」に学び始めたと回答しており、「小学校入学前」も17.9%に達していた。

一方、中3生では「小4まで」が41.6%で、「中1から」も19.8%いた。
2011年度からの小学校外国語活動の必修化が、学習の早期化に拍車をかけた形だ。

また、英語学習が好きかとの問いに「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた小6は76.2%だったが、中3は53.3%にとどまった。


9月 中高生の英語4技能を測る新テスト導入

9月14日の朝日新聞によれば、文部科学省は中高生の英語4技能を測る新テストを2015年度に導入する方針を決めた。

初年度は試行的に英検やGTECなどの民間検定試験で英語の熟達度を測り、将来的には民間と連携した新テストを開発したいという。

文科省は「指導方法の改善に向けた正確な現状把握が目的」だとしている。

9月20日 大阪府教育委員会は2017年春の府立高校入試からTOEFLなどの外部検定試験結果を独自に換算し、入試の英語得点と比べて高い方を採用する方針を発表した。

英語の4技能を測る検定試験が対象で、英検準1級、TOEFL iBT 60点、IELTS 6を入試の100点満点に換算する予定。

中原徹教育長は「日本の将来を支えるリーダーとなる素質を持った子たちの頭を抑える教育から脱却する」ことが狙いだと述べた。

*(註)中原教育長は、パワハラ問題などを理由に、2015年3月に辞職した。

(つづく)