東京の「ゆまに書房」から依頼されていた「英語教育史重要文献集成 第1期全5巻」の解題の校正が、ようやく終わりました。
いよいよ9月中には刊行の運びです。
英語教育の未来を模索するには、過去から謙虚に学ぶ必要があると思います。
そんな思いに駆られて、「今こそ読み返すべき重要文献は何か」を考えに考え、内容を精選しました。
まず浮かんだのは小学校英語教育関係の文献。
明治末期に、文部省が高等小学校用の英語教科書(全3巻)と、英語指導が得意でない小学校教師のための懇切丁寧な指導書(全1巻)を刊行していた事実は、ほとんど忘れ去られているようです。
他方で、2020年度からは小学校の英語教育が教科化されます。
過去から何も学ばない「暴走」のようで、とても心配です。
そんな思いから、第1巻は「小学校英語」とし、上記の4冊を完全復刻しました。
第2巻のマーセル著・吉田直太郎訳『外国語研究法』は、1887(明治20)年に刊行された日本初の英語教授法・学習法書でありながら、吉田が「吉田氏蔵版」として自ら刊行したため、全国の図書館が未所蔵の超レア本です。
私の手許にある2冊を照合し、状態の良いページを復刻の原版としました。
第3巻で復刻した枩田與惣之助(まつだよそのすけ)著『英語教授法集成』(1928)は、戦前における最も包括的な英語教授法書ですが、手書き謄写刷の非売品のため、現在10冊ほどが確認できるだけの幻の名著です。
これも3冊の本を照合し、最も状態の良いページを原版としました。
それでも読みにくい部分は、原本から判読して文字起こしし、解題の附録として掲載しました。
それでも読みにくい部分は、原本から判読して文字起こしし、解題の附録として掲載しました。
私は大学院生のことから枩田與惣之助のお嬢様らとも面談し、貴重な資料・情報・証言を集め、約30年近く枩田與惣之助の研究を進めてきました。
その枩田の幻の名著『英語教授法集成』が完全復刻できることは、まさに「念願かなって」の思いです。
1930~40年代の戦時体制下でも、英語教育関係者らは敗戦直前まで理論と実践を研ぎ澄ましていったことがわかります。
いま読んでも驚くような研究・実践がたくさんあります。
第5巻は、明治以降の英学史・英語教育史研究に関わる重要文献6点を集めました。
とりわけ花園兼定著「明治英学史」は、太平洋戦争下の雑誌に21回連載され、著者の急逝によって絶筆となった幻の英学史研究で、文化史的な価値がきわめて高いものです。
戦時下の雑誌は散逸が甚だしいので、21回分すべてを読んだ人はきわめて少ないと思います。
これを機会に研究が進むことを願っています。
幕末以降の先人たちは、日本語とは言語系統がまったく異なる英語と格闘し、日本人にふさわしい英語教材や教授法を開拓してきました。
それらは、今後の英語教育に幾多のヒントを与えてくれます。
歴史は知恵の宝庫です。
そのことを、本復刻シリーズは再確認させてくれるでしょう。
活用を願ってやみません。