希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

公教育・義務教育としての英語教育を考える

大修館書店の『英語教育』10月増刊号が届きました。

いつものように、自分の「英語教育日誌」より前に、柳瀬陽介先生の「英語教育図書:今年の収穫・厳選12冊」から拝読しました。

文字通り、一気に読ませて頂き、たいへん感動しました。
特に感銘を受けたのは以下の2点です。

・柳瀬先生の深い思考に裏打ちされて、書評の文章がますます冴え渡ってきたこと。

・個々の本の紹介だけでなく、全体に一種のストーリー性があること。通読することで、2012年の日本の英語教育界が抱える問題点が浮かび上がり、それへの書物を通じた抗い・苦闘の跡づけがなされていることです。

特に注目したのは、瀧沢広人著『英語授業のユニバーサルデザイン』(明治図書への書評の前半を割いて、昨今の英語教育改革の問題点を端的に特徴づけされ、公教育・義務教育の目的との不整合を定式化された一文です(87頁)。

大切な文章ですので、以下に引用させて頂きます。

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昨今の英語教育改革案の特徴は、グローバル資本主義のエリートが、次世代のエリートの高い英語力を渇望するあまり、国民全体にグローバル資本主義でのビジネス用の英語力を要求することだ。

だが国民全体がグローバル資本主義用の英語力を必要とするわけではない。また、グローバル資本主義用の、日本語との往復を不必要とし、仕事のために曖昧さや奥深さを極力排除した英語は、英語コミュニケーションのごく限られた一面にすぎない。公教育・義務教育としての英語教育は、まずもって国民全体を対象としたものでなくてはならない。一部のエリートさえ選抜されれば、残りの人間がどう挫折しようが落ちこぼれようがそれは個々人の「自己責任」だ、というのは公教育・義務教育ではない。

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昨今の財界を中心とした英語教育改革の本質と、それがいかに公教育・義務教育としての外国語教育を歪め、教師と生徒に無理難題を押し付けているかが見事に定式化されています。

このほか、「厳選12冊」の冒頭に大谷泰照先生の『時評 日本の異言語教育』(英宝社を置かれたのは、まさに我が意を得たりです。私も昨年の一押し図書だと思っていました。

大谷先生は、今年6月に『異言語教育展望 (昭和から平成へ)』(くろしお出版も出されました。
前著とともに、これまでの異言語(外国語)教育の問題点を、特に政策面から批判的に検討した「未来を照らす本」として、ぜひお勧めいたします。

私たちの『協同学習を取り入れた英語授業のすすめ』(大修館書店)も取り上げて下さり、深く感謝いたします。

アリストテレスから始め、人間が本質的に「社会的動物」であることを丁寧に説き起こしてから「人間の社会性を活かす協同学習」へと展開しているスケールの大きさと本質的な特徴づけに感動しました。

最後の「協同学習実践も、根底で民主主義実践とつながっている」という一文こそ、本書がもっとも言いたかったことの一つです。

毎年『英語教育』10月増刊号が届くたびに、柳瀬先生の「英語教育図書:今年の収穫・厳選12冊」を拝読して、自分の不勉強を恥じます。必ず、読んでいない本に気づかされるからです。

このたびも、あわてて3冊を注文しました。