希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

『英語教育、迫り来る破綻』の読者コメントより(4)

私たちの『英語教育、迫り来る破綻』(ひつじ書房)を読まれた方たちからのメッセージを引き続きご紹介します。

10月23日に届いたもので、小学校英語への疑問などが切々と綴られています。
一部を割愛の上、ご本人の了解を得て掲載します。〔 〕内は江利川の補足です。

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はじめまして。私は公立高校で28年間英語の教員をしております。

5年以上前、当時の勤務校の近隣の小学校で英語活動に先行的に取り組んでいて、その取り組みを見聞きするにつけ、大きな疑問を感じていました。
2年前、小5からの英語活動が全面実施になったのと、自分の息子が小5になるのが同じ年という巡り合わせになりました。

幸か不幸か、わが子が通う小学校はあまり英語活動に本腰を入れているように思えませんでした。
そして今春、息子が中学に入学。子供や妻から聞く中学の話にあきれるばかりです。
同じ市の小・中学校の間ですら連携がとられず、小学校では(十分に)習っていないアルファベットを中学校では「小学校でやってきたんでしょう?」という前提で授業が進み、宿題が出るというのです。
当然、落ちこぼれが続出でしょう。
母親たちの中には、「小学校のうちに英語教室に通わせておくべきだったのか」と後悔する声も少なくないとか。

そうした中で、ブックレット「英語教育、迫り来る破綻」の出版を知り、気になっていましたが、やっと先月買って読ませて頂きました。
私の感じていた問題、疑問がすべて4人の先生方の専門的知見であぶり出されていました。
いや、それどころか、私の知らなかった問題点や現状もいろいろあって、問題意識がより深まりました。
雑誌「中央公論」の最新号〔11月号〕も買って読みました。

ちなみに、日本の学校教育の政策は、英語教育に限らず、実証的検証がいっさいありません。
理科の学習内容ですら、指導要領における編成のされ方は科学的と言えません。

そして〔小学校英語を3年生から、5年生から教科化という〕今日の新聞です。
文科省の方針決定の発表の記事に「いよいよ来たか」と思いました。

ブックレットを読んでから、何か行動を起こさなくては、何ができるのか、と思うようになりました。

私は関西の英語教育学会に属しています。
学会で小学校の英語教育について研究や実践発表はあっても、学会としての問題意識やスタンスが感じられず、所詮「飯(研究)の種」でしかないのかと、とても疑問に感じています。

他の学会はどうなのでしょうか。学会がスクラムを組んで政府や文科省に待ったをかけることは期待できないのでしょうか。

学会に期待できないなら、とりあえず、地元選出の国会議員にでもこのブックレットを持って陳情に行ってみようか、と思っています。(今まで、陳情なんてしたことはありません。)
あいにく、国会が始まってしまい、議員が地元に帰ってくるのは当分先のことでしょう。

先生方は今後、どのような運動・行動を展開されるおつもりでしょうか。

高校の英語教員(私の周囲の同僚など)で小学校英語に肯定的な人にはお目にかかったことがありません。
でも、おそらく諦めているでしょう。文科省に期待していませんから。

私も、「小3から英語授業を受けた子が高校に入ってくる頃には自分は定年を迎えているだろうし、どうでもいいか」と割り切ることもできます。

しかし、常軌を逸したTOEIC信奉などは高校・大学・社会をすでに歪めつつあります。
自分の教え子たちに英語とのつきあい方を誤らせたくありません。我が子にも。
無関心・無関係ではいられません。何かできないものでしょうか。

先生方の一層の御奮闘に期待しております。輪が広がることを切に願っております。

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お気持ちが本当によく伝わってくるコメントです。
ありがとうございました。

「小学校外国語活動を3年生から、5年生から外国語(英語)の教科化」という文科省の方針は、まだ「実施が決定」されたわけではありません。

2020年度をめどに実施を進めるつもりでしょうが、これから中央教育審議会などに諮り、次期学習指導要領の改訂作業を進めるなどの長い手続きが必要です。

もちろん、審議委員には政府・文科省の考えに近い人を選ぶでしょう。
(日本は、このあたりの政策立案過程における民主主義が決定的に不足しています。後からの検証もほとんどされません。だから、「政策」というにはあまりにお粗末な方針が出続けるのです。)

それでも、決定までに私たちが働きかける余地は大いにあります。

議員差への陳情(私もある議員さんからアポを求められ、11月上旬に小学校英語の問題点をお話しします)、新聞雑誌の投書欄、文科省等へのメール、職場での議論などなど、それぞれの持ち場で出来る限りのことをしましょう。

あきらめたら負けです。

私たち4人組(大津、斎藤、鳥飼、江利川)も、怯むことなく、さまざまなメディアで活発に発言を続けています。

「ひつじ英語教育ブックレット」の第二弾、第三弾も計画しています。

お互い忙しいですが、しなやかに、したたかに発言・行動を続けましょう。