新年明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。
今年3月で和歌山大学を定年退職します。
好きな研究に専念したいところですが、後任補充がなく、ゼミ以外の科目を非常勤として引き続き担当します。
大阪大学外国語学部の授業も継続となり、新キャンパスが楽しみです。
新型コロナによる環境の激変を新たな学びのチャンスと捉え、前進しましょう。
2021年元旦
江利川 春雄
大谷泰照先生から御新著『日本の異言語教育の論点:「ハッピー・スレイヴ症候群」からの覚醒』(東信堂、本体2,700円)をいただきました。
深く共感・感動しながら最後まで読ませて頂きました。
この本は、大谷先生が積年訴えてこられた異言語教育論の集大成です。
とりわけ、日本の異言語教育(特に英語教育)が抱える問題点を考える上での根本的な観点である「言語・文化的環境」と「国の教育政策」に焦点を当て、対症療法ではなく原因療法に取りかかるべきだという主張が、豊富な資料(エビデンス)と明快な論理で説得的に展開されています。
感服しました。
その上で、責任を単に政府・文部(科学)省に求めるだけではなく、「教育、とりわけ異言語教育の最大の障害は、国の教育政策の欠陥よりも、むしろそのような教育政策に対する教育関係者の無関心そのものであると考えるべきではないか」(122ページ)と、おそらく身を切るような思いで、問題提起されています。
私自身、このことを言いたくても言えない、言うだけの理論的・実践的貢献ができていない、そんなモヤモヤ感を抱いていたのですが、大谷先生はきっぱりとおっしゃいました。
今の日本の異言語教育界で、誰をも納得させる形で、責任を持ってこの発言ができるのは、大谷先生だけではないでしょうか。
千鈞の重みがある言葉だと思います。
「民主主義の最大の敵は、専横な権力よりも、むしろそのような状況に対する一般民衆の無関心そのものである」(122ページ)。
これも重い言葉です。
安倍政権がなぜこれほど長く続き、安保法制、モリカケ桜疑惑、官邸主導による政府の私物化、果ては新型コロナへの無策を許してしまったのか。
私たちの側の責任と自己批判を問う重い言葉です。
もちろん本書では、教育関係者に声を上げにくくしている要因の一つである過酷な労働環境、それをもたらしている教育への公的負担の僅少さ、クラスサイズの過大さなどについても先生独自の調査結果も交えて、具体的に指摘しておられます。
マルクスは、労働者の自由な時間の獲得こそが社会改革運動の根本条件であると言いましたが、教師の法外に過酷な勤務条件(特に長時間労働)の緩和を本気で勝ちとるための闘いが重要であると、本書を読み改めて強く思いました。
このほか、言語的距離の問題や、日本英語教育史における長期波動論的なマクロ分析、姓名ローマ字表記の問題など、どれもたいへん読み応えがあり、考えさせられました。
また、これまで論文の形で読ませて頂いたものも、最新のデータを盛り込んで丁寧に改訂されており、大谷先生の学問的な良心を感じました。
心から推薦いたします。
ぜひお読みください。
研究社から、7月20日発売予定の遠田和子著『英語でロジカル・シンキング』(本体1700円)をお送りいただきました。
感謝を込めてご紹介します。
books.kenkyusha.co.jp豊富な具体例で、英語の論理展開を習得できる入門書です。
言葉を駆使する際の論理展開については、学校で本格的に教える機会が乏しく、入門的な本もほとんどありません。
ですから、本書はその間隙を埋める、実にありがたい本です。
論理展開を積み木に例えた「積み木方式」というのが、わかりやすくていいです。
「意見・主張」「理由」「事例」という3つのブロックを積み上げていくシンプルな方式です。
著者による積年のディベート経験が活かされています。
個々の発音や文法が正しくても、主張を明快に伝えられない、あの歯がゆさ。
(卒論や修論の指導、あるいは論文審査をした人なら、特に実感されるでしょう。)
もちろん英語に限ったことではありません。
論理展開を鍛えることは、英語教育のみならず、日本語での思考や討論にとってもきわめて重要なことです。
というか、まずは母語での論理的思考力を徹底的に鍛えることが大事です。
本書は、その訓練の場を提供してくれます。
学生のみならず、学会での質疑応答で「何が言いたいの?」とツッコみたくなる意味不明発言の先生たちや、政府・国会のみなさんにも(にこそ)、ぜひお読みいただきたい本です。
講談社「現代ビジネス」(オンライン版 2020.6.11)に,ジャーナリストでライターの田中圭太郎氏による「高校入試『英語スピーキングテスト』が、日本の英語教育を破壊する / 来年度から都立高校入試で始まるが…」が掲載されました。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73202
6ページにおよぶ本格的な記事で、東京都教育委員会が高校入試に導入しようとしている英語スピーキングテストの問題点について鋭く指摘しています。
私も取材を受けましたので、ここに紹介します。
大学入学共通テストへの英語民間試験導入のときもそうでしたが、私たち英語教育関係者がどれほど学理を尽くして反論しても、なかなか世間には浸透せず、政策は変わりません。
ですので、今回のように、大きなメディアに載せて,広汎な人々に問題提起することはとても大切なことだと思います。
新型コロナ禍で教育や入試のあり方が問われており、また都知事選を前に、時期的にもタイムリーだと思います。
目次
懸念される「採点の公平性」
採点者が何者なのかわからない ■誰が、どう採点するのか?
家庭の経済力が影響してしまう ■学力格差の拡大を招く
中学英語の「難化」に耐えられるか ■むしろ「英語力低下」のおそれ
エリート教育を進めたいのか? ■「スピーキング」導入した岩手のその後