希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

謹賀新年

新年明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願い申し上げます。

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2020年度ゼミ生と

今年3月で和歌山大学を定年退職します。

好きな研究に専念したいところですが、後任補充がなく、ゼミ以外の科目を非常勤として引き続き担当します。

大阪大学国語学部の授業も継続となり、新キャンパスが楽しみです。

新型コロナによる環境の激変を新たな学びのチャンスと捉え、前進しましょう。

 

2021年元旦

江利川 春雄

広島文理科大学『英語教育』(1936〜1947)復刻

日本で初めて「英語教育」を冠した専門誌『英語教育』(1936〜1947年、全9巻40冊+別冊特輯号2冊)の復刻版第Ⅰ期1-5巻を、2020年11月、ゆまに書房より刊行することができました。
原本は、東の東京文理科大学(現筑波大学)と並び、英語教育研究の一大拠点だった広島文理科大学(現広島大学)の英語英文学研究室/英語教育研究所の発行です。
当初は月刊で市販されていましたが、戦時下での困難な状況の中、年4回発行の会員配布のみとなり、広島原爆による資料焼失も重なって「幻の英語教育雑誌」となっていました。
そのため、全巻を揃える図書館はなく、その質的水準の高さからも復刻が俟たれていました。
このたび、広島大学名誉教授の故・松村幹男先生の旧蔵書で私の所蔵分の欠号を補うことができましたので、完全復刻にこぎ着けることができました。松村先生の学恩に感謝申し上げます。
後半の第Ⅱ期分は、総目次、解題、索引を付して、2021年4月刊行予定です。
英文学・英語学・英語教育が三位一体となったユニークな雑誌で、質の高い論考に加え、調査報告、書評、座談会、人事記事など、実に面白いです。
ぜひご活用ください。

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復刻版『英語教育』第1期
内容の詳細・カタログ等はこちらをご覧ください。

 

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11月13日(金)、大阪府柏原市で久しぶりに講演します。

演題:「子どもが喜ぶ小学校外国語学習&活動と、英語を日本人が学ぶ意味」

日時:11月13日(金)19:00~21:00

場所:柏原市民プラザ6階(JR関西本線柏原駅」徒歩3分、近鉄大阪線「堅下」駅西へ徒歩10分)

ぜひ、楽しく交流しましょう。

 

 

日本学術会議新規会員任命拒否の撤回を求める声明(日本英語教育史学会)

 
日本学術会議新規会員任命拒否の撤回を求める声明
 
2020年10月11日
日本学術会議協力学術研究団体  日本英語教育史学会
会長 江利川 春雄
 
第25期日本学術会議の新規会員の任命に際し、日本学術会議が推薦した105名の新規会員候補者のうち6名に対し、内閣総理大臣は、何ら具体的な理由を示すことなく、任命を拒否しました。
 
この行為は過去の政府方針に反するものであり、政府による任命権の恣意的な運用に道を開く危険なものです。何よりも、日本学術会議の独立性・中立性を損ない、日本国憲法が保障する学問の自由を侵害し、研究者を萎縮させる不当な行為であると考えます。
 
私たちは内閣総理大臣に対し、今般の任命拒否を決定した理由を開示するとともに、速やかにその決定を撤回し、6名の候補者を会員に任命することを強く求めます。
 
(付記)この会長声明は日本英語教育史学会理事会の承認を得て発表するものです。

大谷泰照著『日本の異言語教育の論点』刊行!

大谷泰照先生から御新著『日本の異言語教育の論点:「ハッピー・スレイヴ症候群」からの覚醒』(東信堂、本体2,700円)をいただきました。

日本の異言語教育の論点 - 東信堂

深く共感・感動しながら最後まで読ませて頂きました。

 

この本は、大谷先生が積年訴えてこられた異言語教育論の集大成です。

とりわけ、日本の異言語教育(特に英語教育)が抱える問題点を考える上での根本的な観点である「言語・文化的環境」と「国の教育政策」に焦点を当て、対症療法ではなく原因療法に取りかかるべきだという主張が、豊富な資料(エビデンス)と明快な論理で説得的に展開されています。

感服しました。

 

その上で、責任を単に政府・文部(科学)省に求めるだけではなく、「教育、とりわけ異言語教育の最大の障害は、国の教育政策の欠陥よりも、むしろそのような教育政策に対する教育関係者の無関心そのものであると考えるべきではないか」(122ページ)と、おそらく身を切るような思いで、問題提起されています。

私自身、このことを言いたくても言えない、言うだけの理論的・実践的貢献ができていない、そんなモヤモヤ感を抱いていたのですが、大谷先生はきっぱりとおっしゃいました。

今の日本の異言語教育界で、誰をも納得させる形で、責任を持ってこの発言ができるのは、大谷先生だけではないでしょうか。

千鈞の重みがある言葉だと思います。

「民主主義の最大の敵は、専横な権力よりも、むしろそのような状況に対する一般民衆の無関心そのものである」(122ページ)。

これも重い言葉です。

安倍政権がなぜこれほど長く続き、安保法制、モリカケ桜疑惑、官邸主導による政府の私物化、果ては新型コロナへの無策を許してしまったのか。

私たちの側の責任と自己批判を問う重い言葉です。

 

もちろん本書では、教育関係者に声を上げにくくしている要因の一つである過酷な労働環境、それをもたらしている教育への公的負担の僅少さ、クラスサイズの過大さなどについても先生独自の調査結果も交えて、具体的に指摘しておられます。

マルクスは、労働者の自由な時間の獲得こそが社会改革運動の根本条件であると言いましたが、教師の法外に過酷な勤務条件(特に長時間労働)の緩和を本気で勝ちとるための闘いが重要であると、本書を読み改めて強く思いました。

 

このほか、言語的距離の問題や、日本英語教育史における長期波動論的なマクロ分析、姓名ローマ字表記の問題など、どれもたいへん読み応えがあり、考えさせられました。

 

また、これまで論文の形で読ませて頂いたものも、最新のデータを盛り込んで丁寧に改訂されており、大谷先生の学問的な良心を感じました。

 

心から推薦いたします。

ぜひお読みください。

 

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遠田和子著『英語でロジカル・シンキング』研究社

研究社から、7月20日発売予定の遠田和子著『英語でロジカル・シンキング』(本体1700円)をお送りいただきました。

 感謝を込めてご紹介します。

 

books.kenkyusha.co.jp豊富な具体例で、英語の論理展開を習得できる入門書です。

 

言葉を駆使する際の論理展開については、学校で本格的に教える機会が乏しく、入門的な本もほとんどありません。

ですから、本書はその間隙を埋める、実にありがたい本です。

 

論理展開を積み木に例えた「積み木方式」というのが、わかりやすくていいです。

「意見・主張」「理由」「事例」という3つのブロックを積み上げていくシンプルな方式です。

著者による積年のディベート経験が活かされています。

 

個々の発音や文法が正しくても、主張を明快に伝えられない、あの歯がゆさ。

(卒論や修論の指導、あるいは論文審査をした人なら、特に実感されるでしょう。)

 

もちろん英語に限ったことではありません。

論理展開を鍛えることは、英語教育のみならず、日本語での思考や討論にとってもきわめて重要なことです。

 というか、まずは母語での論理的思考力を徹底的に鍛えることが大事です。

本書は、その訓練の場を提供してくれます。

 

学生のみならず、学会での質疑応答で「何が言いたいの?」とツッコみたくなる意味不明発言の先生たちや、政府・国会のみなさんにも(にこそ)、ぜひお読みいただきたい本です。

都立高校入試へのスピーキング導入問題

講談社「現代ビジネス」(オンライン版 2020.6.11)に,ジャーナリストでライターの田中圭太郎氏による「高校入試『英語スピーキングテスト』が、日本の英語教育を破壊する / 来年度から都立高校入試で始まるが…」が掲載されました。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73202

 

6ページにおよぶ本格的な記事で、東京都教育委員会が高校入試に導入しようとしている英語スピーキングテストの問題点について鋭く指摘しています。

私も取材を受けましたので、ここに紹介します。

 

大学入学共通テストへの英語民間試験導入のときもそうでしたが、私たち英語教育関係者がどれほど学理を尽くして反論しても、なかなか世間には浸透せず、政策は変わりません。

ですので、今回のように、大きなメディアに載せて,広汎な人々に問題提起することはとても大切なことだと思います。

新型コロナ禍で教育や入試のあり方が問われており、また都知事選を前に、時期的にもタイムリーだと思います。

 

目次

懸念される「採点の公平性」

採点者が何者なのかわからない ■誰が、どう採点するのか?

家庭の経済力が影響してしまう ■学力格差の拡大を招く

中学英語の「難化」に耐えられるか ■むしろ「英語力低下」のおそれ

エリート教育を進めたいのか? ■「スピーキング」導入した岩手のその後