希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

受験英語と参考書の歴史2:戦後の英文解釈を中心に(その5)

5. 英文和訳が絶滅危惧種となった背景(2)

(2) 高校側の要望

文部省とともに、高等学校側も大学入試問題について教科別に意見書を提出していました。

その最大のものが、全国高等学校長協会による「大学入試問題所見集」(1960~73年)です。
現在のところ、英語科については昭和33、35、37、43、45、48年度の6冊が確認されています。

この冊子は、「再考していただきたいと思われる問題と高校側から見て好ましいと思われる問題を併載して(中略)今後の参考に供する」として、高校側から見た大学入試問題の良問と、再考を要する問題を具体的に列挙しています。

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要するに、大学は文部省と高校側との両方から、入試問題作成に関する「圧力」をかけられていたわけです。

もちろん、権威のある大学では、こうした外圧など「どこ吹く風」だったかもしれません。
しかし、多くの大学では、じわじわと影響を受けざるを得なかったというのが実情ではなかったでしょうか。

実際、私の大学でも、入試問題については高校側からの意見を聞き、できるだけ今後の出題に反映させるようにしています。

大学全入時代」や「大学倒産」が叫ばれるいま、高校を敵に回して生き残れる時代ではありません。
入試委員長を拝命して、この点は身に染みています・・・


(3) 経済界の要求(1955)

昨今の教育政策に、日本経団連をはじめとする財界(巨大企業)が大きな影響を及ぼしていることは、拙著『英語教育のポリティクス』(三友社出版、2009)でも明らかにしてきました。

その経済界が大学入試問題についても、一定の影響を与えていたという見解があります。
ここでも、旺文社の『傾向と対策』は敏感にアンテナを張っているのです。

その1958(昭和33)年版では、「「問題がむずかしくなったもう一つの原因は、〔昭和〕30年10月に日本経済団体連合によって出された大学英語教育のあり方についての勧告文であろう」として、次のように述べています。

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もちろん、これだけでは実証不足ですが、この点は大いに研究を深めたいところです。

以上、英語の大学入試問題に対する文部省、高校側、財界の「圧力」を概観してきました。

次回は、より根源的な「社会的背景」について考えてみましょう。

(つづく)