希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

英語教育になぜ・どう協同学習を導入するのか(2)

「英語教育になぜ・どう協同学習を導入するのか」の第2回目です。

“どう”協同学習を導入するか

 協同学習の原理と実践例については、米国のジョンソン兄弟や日本の佐藤学氏をはじめ、様々な見解がある。
これらを私なりに整理し、日本の英語教育で実施可能な協同学習の基本原理と導入の方法を10項目にまとめてみた。今回はその(1)から(5)まで。

(1)建設的な支え合い

 日々の学習や、ときには個人の力では到達できない高い目標に向かって、仲間同士が良好な人間関係を築きながら建設的に支え合う関係(positive interdependence)を形成する。協同学習で最も重要な原理である。

 学び合い・教え合いが円滑にできるためには、気軽に尋ねられ、安心して間違いや失敗ができる人間関係作りが不可欠である。

また、「教えることは2度学ぶこと」(Learners who teach learn twice.)であり、教えるためには豊富な知識、明快な伝達能力、柔軟で粘り強い態度が必要である。

よく、「協同学習ではできる子が損だ」と誤解されるが、ちがう。仲間に教えることで、さらに賢くなるのである。

 なによりも、周囲と良好な関係を築けずに偏差値だけ高くても、その子は幸せではないだろう。

 個人学習も尊重したい。加えて、協同学習を取り入れることで、はるかに学びが深まるのである。

遊びを観察すればわかるように、子どもは仲間に教え、仲間から学ぶ強靱な力を持っている。教師はその力を引き出し、授業作りに積極的に参画させる。

たとえば、スペリングの苦手な子にドリルを課すのではなく、他の子どもと一緒に高度で創造的な活動に参加させれば、その子は活発な交流を通じてスペリングを習得してしまうのである。

(2)教師主導のグループ作りと机の配置

 グループは学力レベルの異なる男女混合の4人が望ましい。5人以上ではリーダー的な生徒と、消極的な生徒が出やすくなる。逆に、3人以下だと議論が低調になり、学びの多様性が失われやすい。

 ただし、最初のころは「となり近所で相談してごらん。時間は2分間」といった相談タイムの導入などから始めてみるのもよい。

 メンバーの構成は、生徒の成績や人間関係などを考慮して、教師主導で作る場合が一般的である。
 生徒に任せると、おしゃべりグループや、孤立する子どもができやすい。
 様子を観察しながら、時々組み替えるとよい。
 ただし、大学生などでは自主的にグルーピングさせることも可能だろう。

 教師が生徒一人ひとりに近距離で接し、生徒同士の聴き合う関係を作るために、机はコの字型に配列し、活動内容によって4人グループやペアに移行させる。
 コの字型が作れないような狭い教室の場合には、その事情を訴えて少人数編成を実現させよう。

 無駄話などが増えて集団での学びが成立しなくなったら、一斉授業に切り替える。
 協同学習の技法に習熟するまでは、一斉授業と協同学習を有効に組み合わせるなど、柔軟な授業運営が必要である。

(3)小集団でコミュニケーション力育成

 「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度」の育成には、ギスギスした競争的な環境ではなく、対話的なコミュニケーション環境作りが必要不可欠である。

 相手の意見をよく聴き、自分の意見を受け入れやすいように伝える技術を学ばせる。言葉づかいを丁寧にし、とりわけ荒れた子どもには丁寧な言葉で接する。「しんどい子ども」こそが、もっともしんどい思いをしているのである。

 なお、高校の新指導要領に盛り込まれた「授業は英語で行う」という方針を機械的に適用すると、教師による一方的な英語使用が助長され、協同学習に必要な生徒同士の意思疎通を阻害しかねない。
 グループ内での話し合いには母語(日本語)の使用も認め、プレゼンテーションや質疑応答などの場面では英語使用を促すなど、柔軟な対応が必要であろう。

(4)個人の責任の明確化

 一人ひとりの責任を明確にし、集団への「ただ乗り」的な依存心を断つ。そのために、従来のグループ学習とは異なり、一般にはリーダーを決めない。決める場合も輪番制にして、全員に責任を果たさせる。

 一人が欠けても成立しない「ジグソー」などの活動を通じて、個人の責任意識を高めることが必要である。
たとえば、英字新聞の記事内容を発表するタスクでは、記事を4分割して4人に配分し、各自に担当部分への責任を負わせる。
次に、同じ部分の担当者同士を集めてエキスパートチームを作り、そこで内容を相談してからホームチームに帰れば、不得意な生徒でも責任を果たすことができる。

(5)ハイレベルな教材やタスクの設定

 単純な答え合わせなどを別とすれば、教材やタスクが易しすぎると協同学習は成立しにくい。
 協同学習がうまくいかない事例を観察すると、課題が易しすぎる場合が多い。すでに塾などで習ってしまったレベルの課題では、仲間と協同する必要がないからである。

 一人の力では到達できないような高いレベルの課題を設定し、目標達成のためのコミュニケーション力と、助け合いによる人間関係力を共に成長させる。
 その理論的背景には、ヴィゴツキーの「発達の最近接領域」の考え方がある。

 小学校の外国語活動や中学校の英語科においては日常会話が主流となり、内容(コンテンツ)に乏しいため、学びの質を高めにくい。

 これを克服し、「背伸びとジャンプ」(卓越性)を可能にするためには、現在学習しているレッスンの少し先の課を協同学習させたり、別の教科書の教材をプリントして使わせるのもよい。

 また、語彙や文法・文型といった言語材料の面のみならず、平和、民主主義、人権、環境、言語文化、人間愛などの深みのある題材を使用することが重要である。

 協同学習は指導方法(How)であるから、英語科教育の目的論や題材論(What)と結びつけることで、人間形成に寄与する教育となるのである。

 なお、すでに課題が終わってしまった生徒を「アドバイザー」に指名して、生徒の相談役になってもらうのもいいだろう。

 大事なことは、長期的、中期的、短期的な「目標」と「評価基準」を明確にしておき、課題が終わってしまった個人やグループでも、次の目標に向けて「何をすべきか」が自覚されていることである。
 そうした先の目標がはっきりしていない場合、授業の最後の方がダレてしまう。
 だから、私は協同学習の授業観察では、最後の最後まで「学び」が続いているかを特に注視している。

(つづく)