英語科における協同学習の導入について、少し詳しく述べましょう。
小論は、大修館書店の『英語教育』2010年7月号に寄稿した論文「英語教育に“なぜ”“どう”協同学習を導入するのか」に加筆・修正したものです。数回に分けて掲載します。
英語教育になぜ・どう協同学習を導入するのか(1)
広がる「学びの共同体」 教師は教える人、生徒は学ぶ人。この常識が、くつがえりつつある。
生徒同士が学び合い、教え合い、一緒に高め合う。
自分一人ではできない高度なタスクを仲間と協力して達成する。
お互いの心が絆で結ばれ、間違えた子をバカにしなくなる。
だから、教室が安心できる居場所となり、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度が育つ。
問題行動も、いじめも、不登校も激減する。
自尊感情が育ち、失敗を恐れず、自分たちで見つけた課題に果敢にチャレンジする。
こうして、生涯にわたって学びを楽しむ自律学習者が育つ。
こうした理念にもとづく協同学習(cooperative learning / 協働学習collaborative learningも類似概念)を取り入れた授業改革が、日本でも急速に広まり、目を見張る成果をあげている。お互いの心が絆で結ばれ、間違えた子をバカにしなくなる。
だから、教室が安心できる居場所となり、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度が育つ。
問題行動も、いじめも、不登校も激減する。
自尊感情が育ち、失敗を恐れず、自分たちで見つけた課題に果敢にチャレンジする。
こうして、生涯にわたって学びを楽しむ自律学習者が育つ。
東京大学の佐藤学氏らが提唱する「学びの共同体」創りを進める学校は、2009年には小学校で約2,000校、中学校で約1,000校(公立の約1割)、高校で約100校に達し、韓国や中国などにも広がっている。
大学でも、協同学習を取り入れた授業改革が成果を上げつつある。
私もすべての授業に協同学習を取り入れた結果、居眠りは消え、遅刻・欠席や単位を落とす学生が激減した。
授業満足度も高まり、勤務先の大学では、2009年度の教養科目部門の「英作文」と専門科目部門の「英語科教育法」の双方に最優秀の「グッドレクチャー賞」が与えられた。大学の英語教育でも、協同学習は驚くべき威力を発揮したのである。
“なぜ”協同学習か
大規模クラスでの対面型一斉授業は、画一的な大量生産を特徴とする「産業社会」時代の遺物である。朽ちた土台の上で、旧式の競争主義的な「改革」を続けても成果は上がらない。
現に斉田智里氏の博士論文によれば、高校入学時の英語学力は1995年から2008年まで14年連続で低下し、下落幅は偏差値換算で約7.4にも達している。(→過去ログ)
ベネッセの調査(2007)では、英語が「好き」と答えた中学生は39.4%だけで、9教科で最低だ。改革の方向が、根本的に間違っているのではないだろうか。
時代が「知識基盤社会」(knowledge-based society)へと変化した現在では、高度の総合的な知識、世界の多様な人々とのコミュニケーション能力、創造的な思考、問題の発見と解決能力を育てる授業スタイルが求められている。ベネッセの調査(2007)では、英語が「好き」と答えた中学生は39.4%だけで、9教科で最低だ。改革の方向が、根本的に間違っているのではないだろうか。
経済協力開発機構(OECD)は、これからの世代が身につけるべき主要能力(key competencies)として、①社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力、②多様な社会グループにおける人間関係の形成能力、③自律的に行動する能力、を挙げている。
国際学習到達度調査(PISA)の出題内容は、この新しい能力観にもとづいている。
国際学習到達度調査(PISA)の出題内容は、この新しい能力観にもとづいている。
こうして、外国語教育の領域でも、多様な個性を持つ周囲の人間と良好な関係を築きながら学び、自律的に行動できる学習者を育てる指導が求められている。
現行の学習指導要領(中学・高校)でも、限定的にではあるが、「学習形態などを工夫し、ペアワーク、グループワークなどを適宜取り入れること」として、協同的な学びを推奨している。
さらに、高校の新指導要領では、「相手の立場や考えを尊重し、互いの発言を検討して自分の考えを広げるとともに、課題の解決に向けて考えを生かし合うこと」(英語表現Ⅱ)など、協同学習の理念に通じる方針が盛り込まれている。
他方で、PISAでのランキング低下を契機に、旧来型の学力観のまま授業時間数が増やされ、「詰め込み教育」に逆戻りする学校も多い。
全国学力テスト、偏差値、外部試験のスコアによって競争が煽られ、格差が広がっている。子どもたちは疲弊し、ますます学びから逃走するだろう。
全国学力テスト、偏差値、外部試験のスコアによって競争が煽られ、格差が広がっている。子どもたちは疲弊し、ますます学びから逃走するだろう。
Less is more.(少ない量で豊かに学ぶ)
フィンランドをはじめとする教育先進諸国では、教育は「量」の時代から「質」の時代へと移行しつつある。
アメリカの研究では、競争的な関係や個別学習の場合よりも、協同的な関係の下の集団的な学びの方が、優れた学力、高次の推論能力、協調的な交友関係、異なる意見への寛容さ、自分への信頼、精神面での健康などを促進することが明らかになっている。
アメリカの研究では、競争的な関係や個別学習の場合よりも、協同的な関係の下の集団的な学びの方が、優れた学力、高次の推論能力、協調的な交友関係、異なる意見への寛容さ、自分への信頼、精神面での健康などを促進することが明らかになっている。
協調的で質の高い学びをどう実現するか。その答えが、協同学習である。
(つづく)