希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

英語教育になぜ・どう協同学習を導入するのか(3)

ここ数日、9月10日に慶應義塾大学日吉キャンパスで開催される「学習英文法シンポジウム」のためのレジュメに追われておりました。

9月17-18日に県立広島大学で開催される日本英語教育史学会全国大会での発表レジュメも重なりました。
ふー。

それにしても、幕末以来の日本の学習英文法の発達史は実に奥が深いですね。
20分で、どうプレゼンしよう。
かなり絞らないとダメですね。

さて、中断していた「英語教育になぜ・どう協同学習を導入するのか」の第3回目です。

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(6)グループによる振り返り

 自分たちの活動をグループ全員で振り返ることで、良好な協力関係を築けているか、次の活動の課題や解決法は何かなどを話し合い、問題意識を共有化する。

 ただし、各自の多様な考え方を尊重するために、意見の統一を無理に求めない。
各個人の貢献度を評価するだけでなく、仲間の積極的な活動を引き出すことが、振り返りのポイントである。

(7)学びを深める教師に

 学習目標と課題、そのための基本手順と評価基準を明確に示し、学習者が自主的・主体的に学びに取り組めるように方向付けする。

 学びが深いと教室は静かになる。学びの深まりを妨げないよう、教師はテンションを下げ、声も小さくする。
かつては「教師は元気はつらつ、声でかく」などと指導していたが、教室が騒々しくなり、深い学びを妨げる場合が多い。

 指導計画はシンプルにし、その分だけ生徒との関わりを濃密にする。教壇にではなく、生徒一人ひとりの学びの様子が分かる位置に立つ。

学びのコーディネーターとしてグループ間を巡回し、問題解決に近づけるためのヒントを与えたり、脇道にそれないよう議論の方向を修正する働きかけも必要である。

(8)授業公開と教師の同僚性の向上

 すべての教師が授業を公開し、授業改善に一丸となって取り組む。
学校の「荒れ」の原因は学びの質の低さによる場合が多く、教師集団の連携が不足している場合が多い。

これらを打破するために、授業を相互に参観し合い、仲間としての学び合い・教え合いを組織することで、教師の同僚性(collegiality)を高めよう。
恥も失敗もさらけ出し、一人の成長をみんなで喜び合うことで、お互いの信頼が生まれるのである。

ちなみに、和歌山大学でも「授業参観制度」を実施している。
 年に2回、全教員が授業を公開し、希望する授業を参観してコメントを書く。
 他の先生の授業を観ることで、大いに学ぶことができる。
 いただいたコメントも授業改善に役立つ。

 これまでの授業参観は教員の指導技術の優劣を観察しがちだったが、協同学習では子どもの学びが深まっているか否かに焦点を当てる。

 参観後の協議会では、全員が発言しやすいように少人数のワークショップ方式を取り入れるとよい。

(9)自分の授業改革から全校的な改革へ

 授業参観と研究協議会を学校経営の中心にすえるためには、会議、書類作成、校務分掌などの「雑用」を削減する必要がある。

そのために、校長のリーダーシップによる全校的な取り組みや、教育行政の理解が必要である。
群馬県教育委員会などでは、提出書類の削減など、教師の「雑用」を減らすための具体的な取組を始めている。

 ただし、管理職や行政の協同学習への認識が乏しい場合も多い。
 高等学校、特に進学校は「保守的」で、新しい指導法に消極的な場合が多い。
 同一進度、同一テストによる「横並び」も制約になる。

 だから、まずは自分のクラスから始めて実績を示し、徐々に仲間を増やして全校規模に広げていこう。

 「できる子」は、文法説明と訳読だけの旧態依然たる教授法でも我慢して自分で勉強してくれる。
 だから、進学校の先生の中には授業改善に熱心ではない人が少なくない(例外はあるが)。

 しかし、大学の全入化が進む中、「試験にでるぞ」という脅しだけで勉強する時代は終わりつつある。
 フィンランドでは16歳までテストが禁じられている。それでも、学ぶ。

 学びの快楽を経験させ、内的な学習動機に火を灯すことがプロの仕事であろう。
 それを忘れて入試実績を誇示することは、あまりに空しいのではないか。

(10)保護者・地域住民の参加

 子どもの学びには家庭や地域の協力が欠かせない。
 学校がすべてを抱え込むことなく、保護者と地域住民・一般市民と連携し、知恵と労力を出し合うことで、学校を核とした地域的な学びの共同体を組織しよう。

 そのために、たとえ荒れていても、学校や授業を積極的に開放する必要がある。
 外国語活動や外国語教育では、留学生や在日外国人などとの交流活動も積極的に進めたい。
 フランスでは、職員会議に生徒代表と住民代表を参加させることが義務づけられている。

 「学びの共同体」創りには「地域の共同体」が必要である。
 逆に言えば、学校での学びの再生は、地域の再生なのである。

(つづく)