希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

2010年度の英語教育界を振り返る(2)

「2010年度の英語教育界を振り返る」の2回目です。

6月 小学生の11%が英会話教室

「英会話などの語学教室に行っている」と回答した子どもは、小学生が約11.2%、中学生が7.2%、高校生が1.5%で、英語学習に励む小学生の多さが目立つ。

2010年6月に発表されたベネッセ教育研究開発センターによる「第2回子ども生活実態基 本調査報告書」で、こんな結果が明らかになった。
調査時期は2009年8~10月。対象は小学4~高校2年生の合計13,797名。

塾などを除く平日の家庭学習時間を2004年と2009年で比較すると、小学生では平均52.4分が58.9分に増加した。

ところが、中学生では60.5分から53.8分に減少している。

高校生では61.5分から61.6分へで、横ばいである。

ゆとり教育」から「たしかな学力」への転換が図られたが、中学生の場合は奏功していないようだ。
英語指導においても、家庭学習をどう促すかの工夫が問われているといえよう。

学習時間が二極化する傾向も現れている。
平日の家庭学習を「ほとんどしない」層の比率をみると、小学生の5.4%に対し、中学生20.5%、高校生25.1%と増加していく。

逆に1日2時間以上学習する層も小学生11.9%、中学生14.6%、高校生23.8%と増加し、学校段階が上がるにつれて家庭学習の二極分化が進んでいる。

学ぶことをあきらめてしまう子どもをどう減らすかが重要な課題であろう。

高校では、進学校の生徒の学習時間が低下する一方で、中堅校や進路多様校で学習時間が増加している。
進学校の成績上位層は2004年の101.1時間から2009年は88.5時間に、中位層は86.5時間から71.6時間に減少している。

推薦入試やAO入試などの普及でハードな受験勉強を強いられなくなったためだろうか。
(*かく言う私の娘も、高3の10月に指定校推薦で大学入学を決め、周囲の受験勉強を尻目に自動車学校に通って円転免許を取得。免許を取ったら、今度は「車がほしい!」 初年度納入金に加えて車の購入費と、親のスネは細るばかり・・・)

もはや「入試」という脅しだけでは学ばない。
自律的・主体的に学ぶ意欲をどう高めるかが教師に求められている。
私は、その切り札が生徒同士が主体的に学び合う「協同学習」だと思っている。

7月 語学ビジネスの縮小/免許更新制は継続

7月1日、矢野経済研究所が「語学ビジネス市場に関する調査結果2010」を発表した。
2009年度の語学ビジネスの総市場規模は、不況の影響やジオスの経営破綻(4月)による業界のイメージダウンなどで、前年度比5.8%減の7,394億円となったという。

2010年度は、好調な独習用教材、小学校英語活動の必修化、子ども手当支給といったプラス要因によって縮小幅が狭まり、総市場規模は前年度比2.0%減の7,244億円と予測している。
縮小する語学ビジネス市場の救世主は、小学校英語と英語社内公用化なのかもしれない。

7月11日の参議院選挙で与党民主党が惨敗。連立与党は110議席過半数(122)に届かず、野党が過半数を占める「ねじれ国会」となった。

かくして民主党は9月29日、教員免許更新制の廃止を盛り込んだ免許法改正案の国会提出を断念した。
免許更新制が廃止されると期待していた教員は慌てて講習に殺到し、キャンセル待ちも相次いだ。
文科省は11月11日、2010年度の更新対象者8万5,487人のうち、約5,100人が講習を受けていないと発表し、免許の失効を警告した。
政権の迷走が招いた混乱によって、またも教育現場が振り回された。

7月11日、慶應義塾大学で「英文解釈法再考:日本人にふさわしい英語学習法を考える」と題したシンポジウムが開催された。

江利川春雄、斎藤兆史大津由紀雄の3人による講演に続き、討論と質疑応答。
会話重視の政策でよいのか、日本人にふさわしい英語学習法とは何かをめぐって熱い議論が交わされた。

8月 35人学級に向け概算要求

8月27日、文部科学省は「第8次教職員定数改善計画案」を公表し、2011年度から8年がかりで公立小中学校の学級人数の上限を40人から35人(小学校1・2年では30人)に段階的に引き下げる方針を打ち出した。
これに伴い、教員定数を現在の76万人より1万9,400人増やす計画だった。

しかし、最終的には教員の大幅増員が見送られ、35人学級は小1だけと後退した。
小2以上については「順次改訂することを検討する」としたが、期限を定めない努力目標にとどまっている(その後、小2だけ認められた)。
2009年の政権交代を経てようやく実現した35人学級だが、小1だけという小さすぎる一歩前進となった。

すでに小2以上での少人数学級を独自に実現させている自治体も多いが、国の動きが鈍いために地域格差が広がっている。
中学・高校での、特に英語の授業での少人数化も急務である。

この他、英語教育関係の概算要求では「ALTの指導力等向上のための取組」が盛り込まれた。
新学習指導要領への対応とともに、服務規律等の理解と徹底を図るため、JETプログラムで招致したALTに5日間程度の研修を予定している。
しかし、最も研修が必要な民間委託のALTについては手つかずのままだ。

(つづく)