希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

2010年度の英語教育界を振り返る(5)

「2010年度の英語教育界を振り返る」も第5回、いよいよ最終回です。

こうして過ぎ去った日々の記憶と記録をたどってみると、今日に通じる様々な問題の萌芽や源泉が見えてきます。

ずっと提起され続けてきたのに、いまだに解決していない、しようとしていないことに、忸怩たる思いに駆られることもあります。

2010年度の最後は、あの3.11大震災と原発事故でした。

野田政権は、結局「原発ゼロ」を閣議決定しませんでした。

Facebookにも書いたのですが、被災地の復興を支援するはずの2012年度の復興特別会計から、高速増殖原型炉「もんじゅ」を運営する日本原子力研究開発機構核融合エネルギー研究費に42億円が計上されていたことも明らかになりました。

国家的詐欺です。
3.11から何を学んだのでしょうか。

小さな島をめぐる紛争に目が奪われているうちに、国民の強い意志だった「原発ゼロ」はうやむやにされ、原子力ムラの住民が原子力規制委員会のトップに就きました。

自民党野田派を厳しく追及し、声を上げ続ける必要を痛感します。

と、僕なりに2010年度の記録から学びました。

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2011年 2月 教員の7割が小学校外国語活動に不安

外国語(英語)活動の指導に(とても/まあ)「自信がある」と答えた担任は31.7%にすぎず、(あまり/まったく)「自信がない」が68.1%に達した。

2月15日に公表された「第2回小学校英語に関する基本調査(教員調査)」の結果である。
調査は2010年7~8月に全国の公立小学校を対象に実施された。

外国語活動に(とても/まあ)「負担を感じている」との解答も62.1%と多かった。
教材準備やALTとの打ち合わせの時間の不足を指摘する声も多く、担任の72.9%が英語の専科教員による指導を望んでいる。

外国語活動を必修にすることに「賛成」(賛成+どちらかといえば賛成)は57.3%だが、教科に格上げすることに「賛成」は27.2%、「反対」は66.6%に及んでいる。

過去1年間の外国語活動に関する校内研修時間は平均6.8時間で、0時間の20.4%と1~5時間未満の37.2%を足すと過半数を超える。
年間120時間以上の研修を課した韓国はもとより、文科省が掲げた「2年間で30時間程度の校内研修」にも遠く及んでいない。

日本PTA全国協議会による「平成21年度 学校教育改革についての意識調査」(2010年3月)でも、小学校の外国語活動のための条件整備で保護者が必要だと思うものは、上位から「英語専門教員の配置」52.2%、「小学校にふさわしい工夫された指導法」44.2%、「外国人ネイティブの配置」42.8%となっている。

教員と保護者の双方が英語専門教員の配置を求めていることを重く受けとめ、行政は対策を急ぐべきであろう。

2月20日毎日新聞社等が主催する第1回「毎日小学生英語検定(毎検)」3~5級が実施された。
面接で会話力も審査する1・2級は2月27日実施。

小学校外国語活動の必修化を目前に、「リスニングを中心に日常生活の場面で使う基本的な表現」を中心に出題された。総受検者数は3,367人。
小学校英語市場は着実に拡大している。

2月25~26日に実施された京都大学の入試で、英語と数学の問題が試験場から携帯電話でインターネット掲示板に投稿され、回答が寄せられる事件が発生した。

数校の私立大でも発覚。19歳の予備校生が逮捕された。
伝統的な入試制度の抜本的な改革が必要であるとするマスコミの論調が目立った。

3月 東日本大震災原発事故で放射能拡散

3月11日、マグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震と最大40mに達する巨大津波によって、死者・行方不明者が2万人を超す大震災が発生した。

あおりで、東日本を中心に英語教育関係の学会・研究会も中止が相次いだ。
また、多くの研究団体や学校などが被災地への支援や募金活動に取り組んだ。
たとえば、新英語教育研究会では震災直後から全国規模の募金活動や教材・文房具を被災地に送り届けるなどの支援活動を行った。

全電源が喪失した東京電力福島第一原発では3基の炉心が溶融し、水素爆発や汚染水流出によって大量の放射能が放出された。
土壌や食品の汚染による健康被害の拡大が懸念される。

福島県の調査によれば、一般人の立ち入りが禁じられる放射線管理区域なみの高い放射線量の場所に、県民の76%に当たる150万人以上が住み、うち30万人は子どもだという。

文部科学省は、福島県内の学校での年間被曝限度を一般人の20倍にあたる20ミリシーベルトに引き上げた。
放射線管理区域の6倍以上にあたる高さだ。

しかも、最も危険な内部被曝が考慮されていない。
関東などでも高い放射能に汚染された地域が判明した。
子どもたちを放射能から守ることが、すべての教育活動の前提である。

国策の名による原子力神話が崩壊した。
政府、電力会社、原子力産業、監督官庁、マスコミ、学者を含めた「原子力村」と称される癒着構造と、情報の操作・隠匿が問題となった。

3.11は学問研究のあり方をも厳しく問い直した。
英語教育関係者も「英語村」化を警戒し、民主的で開かれた議論を展開していきたい。


<惜別 2010年度> ご冥福をお祈りいたします。
 
五島忠久氏(大阪大名誉教授・英語教育) 5月6日逝去、99歳。
日本児童英語教育学会初代会長。著書は『英語科教育基礎と臨床』、『小学生に英語を教えるために』、『中学英語指導のヒント』など。

半田一郎氏(東京外大名誉教授・応用言語学) 8月31日逝去、85歳。
琉球語を含め、十数カ国語に通暁。著書は『英語四週間』、『英語手紙の書き方』、『琉球語辞典』など。

村田勇三郎氏(立教大名誉教授、機能的統語論) 11月26日逝去、79歳。
英語語法文法学会会長などを歴任。著書は『機能英文法』、『英語学と英語教育』、『英語の文法』など。

猿谷要氏(東京女子大名誉教授・米国史) 1月3日逝去、87歳。
マイノリティの視点から米国史を研究。著書に『アメリカ黒人解放史』、『西部開拓史』など。

片山嘉雄氏(岡山大名誉教授、英語教育) 2月24日逝去。89歳。
著書は『英語科教育法読本』、『新・英語科教育の研究』、『英語音声学の基礎』など。

竹林滋氏(東京外大名誉教授、英語音声学・辞書学) 3月10日逝去、84歳。
ライトハウス英和辞典』など多くの辞書編纂に携わる。著書に『英語音声学』など。 

(完)