希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

新著『英語教科書は<戦争>をどう教えてきたか』発売のご挨拶

新著『英語教科書は<戦争>をどう教えてきたか』(研究社、本体2200円)が7月18日、発売になりました。


幸いなことに、朝日新聞が取材に来られ、順調なら本日18日の夕刊に本書のことが掲載されそうです。
(ただし、関西は台風の被害が大きかったため、大阪本社版には掲載されないようです。僕の地元版が報じないのは残念ですが。)

この本では、英語教育界が避けてきた「英語教育と<戦争>」との関係という大問題について、明治初期以降の英語教科書を徹底的に調査することで、実証的に提示しました。

資料集めには約30年もの歳月が必要でしたが、執筆は文字通り「一気」でした。

戦争への道を突き進もうとしている安倍政権への怒りが、強烈に背中を押したからです。

ただし、客観的な記述に徹するよう、本文と挿絵を多数引用しました。
主観をできるだけ排し、事実をして語らしめることが大事だと考えたからです。

執筆中は、教科書そのものが熱く語りかけてくるような錯覚を覚えました。

ときには、生きたまま葬られていたゾンビが、「オレはまだ死んでないぞ」と墓場から顔を出してきたような恐怖すら感じました。

ちなみに、表紙を飾る子どもたちの「戦争ごっこ」の絵は、1907(明治40)年の小学校用の検定英語教科書(英語教授研究会著 New Imperial Readers for Primary Schools 1)から採りました。
現在の、小学5年生用の教科書です。

同じ年に刊行された高等女学校1年生用(現在の中1に相当)の教科書(武田錦子著Girls' English Readers1)でも「戦争ごっこ」が教材化されています。

イメージ 2

ところが、日本最初の女子英語読本だった武田のリーダーの最初の版(1902:明治35年版)には、戦争教材はほとんどありませんでした。

このことからも、日露戦争(1904ー1905)に「勝利」したのちに、戦争礼讃の空気が一気に広がったことがわかります。

こうして、明治以降の英語教科書を読み直してみると、大日本帝国の<戦争>の歴史がくっきりと浮かび上がります。

「おわりに」には、次のように書きました。

 <戦争>英語教材で読む日本近代史。
 本書はそのような本になった。
 これは筆者が意図したのではない。英語教科書の<戦争>教材を通時的に並べた結果、戦争に明けくれた日本近代史の姿がくっきりと浮かび上がることになってしまったのである。それほどまでに、明治以降の英語教科書は<戦争>教材を盛り込み続けてきた。
 幕末から明治初期にかけて、白人中心主義的な文明段階説で「半文明人」とされた日本人は、西洋列強に追いつくべく富国強兵に乗り出した。日清・日露戦争に勝利し、第一次世界大戦戦勝国となることで、日本は「文明国」の仲間入りを果たした。しかし、それは戦争と植民地支配をともなう帝国主義の道のりであり、周辺アジア諸国英米との軋轢を不可避としたのだった。そうした日本近代史の軌跡が、英語教科書には刻まれている。

そうした教科書で教育を受けた子どもたちは、いったいどうなったのでしょうか。

同じ過ちを犯さないためにこそ、本書を読んでいただければ幸いです。