希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

外国語教育政策を転換させよう

8月21-23日に東京で開催された「みんなで21世紀の未来をひらく教育のつどい:教育研究全国集会2009」に出席し、外国語分科会で全国から集まった皆さんの素晴らしい実践に接することができました。
その冒頭で発言した基調提案「外国語教育の現状とあり方」の概要を記します。
悪政を続けてきた与党の歴史的な大敗北の今こそ、攻勢に転じましょう!

(一)深刻な英語学力低下と格差化を克服するために

 オーラル重視の学習指導要領が中学校で実施された1990年代以降、高校入学時の英語学力は一貫して低下し、10年ほどの間に偏差値換算で約七も下落したという報告があります。
 高校でも、オーラル重視の新課程で学んだ生徒が大学入試センター試験を受験した1997年度から英語の成績が急激に下落しました。
 背景には、日本人の学習環境にそぐわない「第二言語としての英語」(ESL)的なオーラル偏重路線があるとする指摘があります。
 とりわけ深刻なのは、一握りの「英語が使える」エリートの育成を図る新自由主義的な教育政策の下で、家庭の経済的困難さと低学力とが比例する格差構造が固定化し、特に中下位層の成績が著しく下落して、英語嫌いが増えたことです。英語が「嫌い」と答える中学生は30.5%で、9教科中で最悪です。
 こうして早い段階で学びからの逃走が進んでいます。このような子どもたちに対する学力保障が急務です。放置したならば、非正規雇用の低賃金労働に追い込まれ、アメリカがそうであるように、やがては戦場に送り込まれかねないからです。

(二)新学習指導要領を乗りこえる実践を

 小学校の新学習指導要領では、教員補充などの条件整備もなしに5・6年生で「外国語活動」が必修化され、2009年度から前倒し実施が始まるなど、担任教員に著しい負担を強いる内容となっています。英語格差の早期化も懸念されます。
 中学校では、外国語が週三時間から四時間に増やされ、四技能の総合的な指導、文法指導の重視、語彙の3割増、指定語の廃止、既習事項の反復、辞書指導の強化、小学校外国語活動への留意などが盛り込まれました。
 しかし、週4時間化に必要不可欠な教員定数や予算を増やそうとしていません。過大なクラスサイズも放置されたままです。こうした条件整備を伴わない限り、「詰め込み主義」へと逆走するだけであり、早急な改善が必要です。
 高校では「リーディング」や「ライティング」を廃止し、一段と「コミュニケーション」(= オーラル)に偏重した科目構成に改悪しました。なにより問題なのは、「授業は英語で行うことを基本とする」として、教室での使用言語にまで一律に規制をかけたことです。この方針は理論的にも実践的にも重大な誤りであり、学校現場に深刻な影響を与えかねません。
 厳しく批判し、実践的に乗りこえていく必要があります。
 さらに、指導要領が外国語科においても「愛国心」や「奉仕の精神」を含む道徳教育を強制させようとしていることは特に危険です。新教育基本法でも定めているように、教育の目的は「人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者」を育てることです。この観点と「外国語教育の四目的」に立って、平和・民主主義・諸民族連帯・人権・環境などの題材論を深め、官製道徳に対置した「私たちの道徳」を実践していくことが大切です。

(三)競争と格差から、協同と平等の外国語教育へ

 2008年秋のグローバル恐慌によって新自由主義が破綻し始めた中で、教育政策においても競争と格差から協同と平等へと転換させるチャンスです。
 対抗軸として、生徒同士の協同による学びに向けた授業作りを進めましょう。子ども同士の教え合い・学び合い・高め合いを通して真のコミュニケーション力と人間関係力を成長させ、居心地のよい学校に変えましょう。教室を競争的な教科学習だけの場から、多様な考え方・能力・個性を持った人と共に生きる場へ、つまり民主主義を学び合う場へと変えましょう。子どもたちを主体的に学び続ける自律学習者へと成長させ、主権者を育てましょう。
 そのために、本分科会においても外国語教育における協同学習のノウハウを共有化し、蓄積していきましょう。職場でも会議と雑用、授業担当時間を減らして授業の事例研究と改善に打ち込める体制を作り、教師の同僚性を高めましょう。(文責 江利川 春雄)