大谷泰照著『日本の異言語教育の論点』刊行!
大谷泰照先生から御新著『日本の異言語教育の論点:「ハッピー・スレイヴ症候群」からの覚醒』(東信堂、本体2,700円)をいただきました。
深く共感・感動しながら最後まで読ませて頂きました。
この本は、大谷先生が積年訴えてこられた異言語教育論の集大成です。
とりわけ、日本の異言語教育(特に英語教育)が抱える問題点を考える上での根本的な観点である「言語・文化的環境」と「国の教育政策」に焦点を当て、対症療法ではなく原因療法に取りかかるべきだという主張が、豊富な資料(エビデンス)と明快な論理で説得的に展開されています。
感服しました。
その上で、責任を単に政府・文部(科学)省に求めるだけではなく、「教育、とりわけ異言語教育の最大の障害は、国の教育政策の欠陥よりも、むしろそのような教育政策に対する教育関係者の無関心そのものであると考えるべきではないか」(122ページ)と、おそらく身を切るような思いで、問題提起されています。
私自身、このことを言いたくても言えない、言うだけの理論的・実践的貢献ができていない、そんなモヤモヤ感を抱いていたのですが、大谷先生はきっぱりとおっしゃいました。
今の日本の異言語教育界で、誰をも納得させる形で、責任を持ってこの発言ができるのは、大谷先生だけではないでしょうか。
千鈞の重みがある言葉だと思います。
「民主主義の最大の敵は、専横な権力よりも、むしろそのような状況に対する一般民衆の無関心そのものである」(122ページ)。
これも重い言葉です。
安倍政権がなぜこれほど長く続き、安保法制、モリカケ桜疑惑、官邸主導による政府の私物化、果ては新型コロナへの無策を許してしまったのか。
私たちの側の責任と自己批判を問う重い言葉です。
もちろん本書では、教育関係者に声を上げにくくしている要因の一つである過酷な労働環境、それをもたらしている教育への公的負担の僅少さ、クラスサイズの過大さなどについても先生独自の調査結果も交えて、具体的に指摘しておられます。
マルクスは、労働者の自由な時間の獲得こそが社会改革運動の根本条件であると言いましたが、教師の法外に過酷な勤務条件(特に長時間労働)の緩和を本気で勝ちとるための闘いが重要であると、本書を読み改めて強く思いました。
このほか、言語的距離の問題や、日本英語教育史における長期波動論的なマクロ分析、姓名ローマ字表記の問題など、どれもたいへん読み応えがあり、考えさせられました。
また、これまで論文の形で読ませて頂いたものも、最新のデータを盛り込んで丁寧に改訂されており、大谷先生の学問的な良心を感じました。
心から推薦いたします。
ぜひお読みください。
遠田和子著『英語でロジカル・シンキング』研究社
研究社から、7月20日発売予定の遠田和子著『英語でロジカル・シンキング』(本体1700円)をお送りいただきました。
感謝を込めてご紹介します。
books.kenkyusha.co.jp豊富な具体例で、英語の論理展開を習得できる入門書です。
言葉を駆使する際の論理展開については、学校で本格的に教える機会が乏しく、入門的な本もほとんどありません。
ですから、本書はその間隙を埋める、実にありがたい本です。
論理展開を積み木に例えた「積み木方式」というのが、わかりやすくていいです。
「意見・主張」「理由」「事例」という3つのブロックを積み上げていくシンプルな方式です。
著者による積年のディベート経験が活かされています。
個々の発音や文法が正しくても、主張を明快に伝えられない、あの歯がゆさ。
(卒論や修論の指導、あるいは論文審査をした人なら、特に実感されるでしょう。)
もちろん英語に限ったことではありません。
論理展開を鍛えることは、英語教育のみならず、日本語での思考や討論にとってもきわめて重要なことです。
というか、まずは母語での論理的思考力を徹底的に鍛えることが大事です。
本書は、その訓練の場を提供してくれます。
学生のみならず、学会での質疑応答で「何が言いたいの?」とツッコみたくなる意味不明発言の先生たちや、政府・国会のみなさんにも(にこそ)、ぜひお読みいただきたい本です。
都立高校入試へのスピーキング導入問題
講談社「現代ビジネス」(オンライン版 2020.6.11)に,ジャーナリストでライターの田中圭太郎氏による「高校入試『英語スピーキングテスト』が、日本の英語教育を破壊する / 来年度から都立高校入試で始まるが…」が掲載されました。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73202
6ページにおよぶ本格的な記事で、東京都教育委員会が高校入試に導入しようとしている英語スピーキングテストの問題点について鋭く指摘しています。
私も取材を受けましたので、ここに紹介します。
大学入学共通テストへの英語民間試験導入のときもそうでしたが、私たち英語教育関係者がどれほど学理を尽くして反論しても、なかなか世間には浸透せず、政策は変わりません。
ですので、今回のように、大きなメディアに載せて,広汎な人々に問題提起することはとても大切なことだと思います。
新型コロナ禍で教育や入試のあり方が問われており、また都知事選を前に、時期的にもタイムリーだと思います。
目次
懸念される「採点の公平性」
採点者が何者なのかわからない ■誰が、どう採点するのか?
家庭の経済力が影響してしまう ■学力格差の拡大を招く
中学英語の「難化」に耐えられるか ■むしろ「英語力低下」のおそれ
エリート教育を進めたいのか? ■「スピーキング」導入した岩手のその後
『英語教育のために:中村敬を継ぐ』刊行!
峯村勝さん(元三省堂編集者)が、自ら主宰する言語教育研究所より『英語教育のために:中村敬を継ぐ』(頒価500円)を上梓されました。
著者から頂きましたので、感謝を込めてご紹介します。
すばらしい本です。
目 次
第Ⅰ部《インタビュー》
中村敬先生(成城大学名誉教授)へのインタビュー
「中村敬(英語教師・英語社会学者・英語教育学者)に聞く英語教育の本質を探し求める旅ーー半世紀の記憶をたどって」(聞き手・峯村勝)
第Ⅱ部《評論》
中村敬の仕事ーー人間・ことば・英語教育
はじめにーー英語教育史に記録されるべき傑物:中村敬
[1] 中村計の教師像
[2] 中村敬と英語論
[3] 中村敬と文化論
[4] 中村敬と英語教育論
[5] 中村敬と英語教科書(1)
[6] 中村敬と英語教科書(2)
■著書解題
■中村敬略歴
あとがきーー継承すべき歴史的価値:岡倉由三郎と中村敬
中村敬先生という「日本英語教育史に記録されるべき傑物」を、このような形で現代および後世に残された意義は計り知れないと思います。
私自身、院生時代に読んで衝撃を受けた『私説英語教育論』(研究社、1980)や『英語はどんな言語か:英語の社会的特性』(三省堂、1989)から、教員として大学院のテキストに指定した『「英語教育神話」の解体:今なぜこの教科書か』(三元社、2014)に至まで、中村敬先生ご自身と著書・論考から絶大な影響を受け、個人的にもたいへんお世話になりました。
このたびの『英語教育のために:中村敬を継ぐ』から1箇所だけ引用します。
「このような歴史的経緯の中での英語教育のあるべき姿を追究したのがぼくの一生でした。それは葛藤の一生でもありました。
葛藤は、英語を深く学び、教え、研究することが、文化の深層に触れることのプラスの側面と、富国強兵という国家の理念を補完することになるのではないかという負の側面との間に生ずる葛藤です。その負の理念は自由であるべき教育や学問の自律性に反する。その葛藤を克服するために、あるいは特定国の言語であることから生ずる英語帝国主義状況を克服する理論として、ぼくは「対抗理論」と「空洞化理論」を提出し、それを実践することで闘ってきました。闘いはまだ終わっていません。」(39ページ)
英語教育関係者の多くが体制化し、英語教育の「負の側面」を忘れ、批判精神と社会的政治的視野を欠いて、目的論なき些末スキル主義に走るなかで、中村先生の発し続けてこられた警鐘をどう継承するかが、文字通り問われていると思います。
三省堂のNEW CROWNを中村先生と共に担われた若林俊輔先生も今は亡く、私の恩師である青木庸效先生も昨年逝去されました。
一人孤塁を守る中村先生には、どうか益々お元気でご活躍をお願いしたいと思います。
「闘いはまだ終わっていません」
もとより「中村敬を継ぐ」べきは私たちであり、さらに次世代に継いでいかねばならないと自覚しております。
あまりにも荒涼とした砂漠のような日本の英語教育界に身を置くことは、正直、苦痛そのものです。
さりとて、このままでは子どもたちを苦しめるための「英語教育」に成り果てますので、『英語教育のために:中村敬を継ぐ』から元気をもらい、取り組みを続けましょう。
本書を心から勧めます。
1月11日(土) 日本英語教育史学会研究例会(東京)
日時:2020年1月11日(土)14:00~17:00
参加費:無料
研究発表①
日本の自治体における外国語教育政策の波及:1970年代以降の各都道府県の「研究テーマ」を手がかりとして
青田庄真氏(筑波大学[助教])・酒井秀翔氏(筑波大学[学群生])
【概要】新政策を積極的に開拓する自治体,他の動向を見極めて導入する自治体がある。本研究では,外国語教育をめぐる自治体の政策過程を明らかにすることを目指し,史料をもとに政策の内容を類型化するとともに,その類型や自治体の特徴に着目して政策波及の動態を分析する。
研究発表②
広川由子氏(愛知江南短期大学[講師])
【概要】本発表は,講和条約締結後におけるロックフェラー財団の対日英語教育支援活動の実態を、日本英語教育研究委員会(ELEC)の成立と展開に着目して明らかにすることを目的とする。ELECの実態解明を通して、米国側の日本の英語教育への「まなざし」に言及し、財団の活動を「フィランソロピー戦略」という新概念で定義することを提唱したい。使用する史料は主にロックフェラー財団文書館所蔵のジョン・D・ロックフェラー3世文書である。
<問合先>日本英語教育史学会例会担当メール:
reikai(at)hiset.jp (at)を@に変換してください。
◆例会は会員・非会員に限らずどなたでもご参加いただけます(予約不要)。
◆ご宿泊の方は宿泊先等の確保をお早めにお願いします。
◆例会終了後に懇親会を行います。こちらにも奮ってご参加ください。
<会場案内> 次のリンク先をご参照ください。
ページ下段にある地図内の「第2教育棟」が会場です。