希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

教え子を「戦場」に送らないために(1)

今日は和歌山、大阪などの教員採用一次試験。
しのぶ、もんちゃん、受講生のみんな、どうか頑張ってほしい。

僕の英語科教育法を10年ほどの前に受講し、今は大阪堺市の中学校教員をしているA君に先日会った。
4月に移動した新しい職場が、生徒の「荒れ」でしんどいらしい。

「毎日、戦場に行くようなストレスを感じます」

と彼は言った。

そういえば、別の教え子は、せっかく教採に合格し、あこがれてなった中学校英語教員を、昨年辞めてしまった。

「教え子を戦場に送るな」

この言葉が、1950年代とは別の重みで僕にのしかかる。

教員養成に携わっている僕らは、「戦場」と化してしまった学校に、教え子を送り出しているのかもしれない。

そんな思いは、朝日新聞の連載「いま、先生は」(7月19日~23日の5回と25日に反響編)を読んで、さらに重くなった。

秀逸のルポルタージュである。

どうせなら、参議院選挙の前に連載し、教育問題、とりわけ教員の過酷な勤務実態を政治的争点の一つにしてほしかったが。

第1回は大阪八尾中学校の吹奏楽部顧問で、49歳で昨年亡くなった先生の話。

学年主任として「宿泊学習の手配、人権教育の企画・・・。生徒の問題行動や保護者の対応に備えるため、同じ学年の教師が全員帰宅するまで学校に残った。家に戻っても、生徒や保護者と電話で話したり、授業のプリントを作ったり。」
「仕事は忙しく、学期末には夜の10時過ぎまで学校に残ることもしばしばだ。」

大阪府教委が2009年11月に府内の公立学校の教師約3千人に実施したアンケートでは、58%が「こころの健康に不安を感じる」と回答した。

その原因について「勤務時間が長い、仕事量が多い」が最多で36%に上った。

東京都教職員互助会などが2006~08年、全国の公立小中学校の教師1600人に実施した調査では、「1週間の中で休める日がない」は44%で、企業の3倍近い。

こうした異常事態を作りだし、放置し、改善しようとしないなら、行政はゆるやかな殺人に手を貸しているのではないか。

この10年ほどの「教育改革」の名による教員バッシング、過重労働、競争と査定が何をもたらしたかは、事態が証明している。

政権交代の影響か、文部科学省もようやく40人学級定員の見直しを開始したが、政府の動きはあまりに遅い。

まずは、教員が置かれている状態をリアルに認識することが第一である。
そうすれば、国民世論も危機的な現状に気づくだろう。

先生の危機は、我が子の危機である。

先生が輝けないで、子どもが輝くはずがない。

そんな国の未来が、輝くはずがない。

(つづく)