希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

教え子を「戦場」に送らないために(3)

去る7月30日に、この春に大阪の中学校の英語教諭になったゼミ生が、アポもなしに突然ゼミに参加してくれた。

ゼミに続く「中等英語科教育法」の授業でも、飛び入りのゲスト・ティーチャーとして、教員採用試験の勉強法や、学校の様子を話してもらった。
後輩たちには、たいへん良い刺激になったようだ。

彼はすっかり日焼けし、元気そうで安心した。
日焼けの原因は陸上部の指導。(彼に陸上の経験はない。)
おまけに、新卒だというのにいきなり1年生の学級担任。
それに、週に1回は「あまり意味がない」という初任者研修。
さらに、生徒の問題行動などで、この4カ月に20回以上は家庭訪問をしたという。

学校を離れられるのは、平均8時半ごろ。
終電もしばしばだという。

最大の悩みは、「教材研究は授業準備に時間が取れないことです」とのことだ。

わがゼミ出身者ながら、「戦場」のような学校環境で実によくがんばっている。
どうか、頑張りすぎないでほしいが。

ひとつだけ救いなのは、職場の人間関係がとても良く、なんでも相談できる雰囲気があることだ。
教師間の同僚性が高い。
これが決定的に重要だ。

さて、朝日新聞の連載「いま、先生は」では悲惨な実態がつづられてきたが、7月25日号には「反響編」が掲載されている。
全国から、約300通の反響が寄せられたという。

この反響編に載った図が、日本の教師たちの現状を端的に示している。

イメージ 1

1980年と比べると、2007年には「学校にいる」時間が2時間近く増えている。
もちろん、民間のように2時間分の超過勤務手当が上積みされるわけではない。
民間なら「サービス残業」として違法となる。

この放置された違法行為を、本来なら労基署は取り締まらなければならない。
が、現状では超過労働を野放図に行わせる仕組みになっている。

学校が違法労働の巣となれば、子どもたちも違法労働に対して鈍感になる。
それがサービス残業過労自殺の温床となる。
行政の責任は重い。

心配なのは、睡眠時間が7時間8分から5時間57分に減少していることだ。
これでは、疲労が蓄積されるだろう。

読書時間も半減している。
こんな状態を放置したまま、「教員の資質を高める」などと免許更新制を導入した連中の無知、無感覚。
普通の「愚かさ」を二乗して積分しても、この連中の「超人的な愚かさ」にはかなうまい。

英語教授法の改革は語っても、教育条件の整備を口にしない英語教育関係者は実に多い。
先日、僕があるシンポジウムで教育条件や政策の話をしたら、「組合的だ」との批判をいただいた。

この政治的ナイーブさが、先生たちをますます追い詰めているのではないか。

Aという指導法をBという指導法に変えたら、統計上有意な差で効果が検証できました。
で、論文一丁上がり!

40人学級を30人にしたら、もっと効果が上がるだろうという点には口をつぐむ。

その陰で、「戦場」にいる前線の先生たちが次々に倒れている。

そこに思いを馳せない英語教育研究など、「教育」にも「研究」にも値しない。