希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

中部地区英語教育学会岐阜大会の収穫

6月30日・7月1日,第42回中部地区英語教育学会岐阜大会に行って来ました。

収穫は大。
大いに充電されました。

(1)プロジェクト「協同学習を取り入れた英語授業」の立ち上げ

3年計画の中部地区英語教育学会課題別研究プロジェクトとして承認されました。

共同研究者は,今のところ以下の3人です。

大場 浩正(上越教育大学;研究代表)
亘理 陽一(静岡大学
江利川春雄(和歌山大学

今後,中高の先生方を含め,共同研究者を募りたいと思います。その場合,中部地区英語教育学会の会員であることが条件になります。

<趣旨・目標>
本プロジェクトの目的は、協同学習を取り入れた英語の授業方法を開発し、実践を通してその効果を検証することである。
学習者の英語コミュニケーション能力を育成する上で,協同学習の果たす役割は大きいと思われる。なぜなら,協同学習で養われる人間関係,コミュニケーション能力やソーシャル・スキルは学習者同士が英語を用いてコミュニケーション活動を行い,協力して積極的にペアやグループ・ワークに取り組む際にたいへん重要だからである。
しかしながら,英語科における協同学習の実践はまだまだ乏しく,また,外国語という特性により他の教科とは異なる固有の困難さがある。
そうした困難さを一つずつ克服し,英語科における協同学習を通してどのように学びの質を高め、同時に、人間関係を深めていけるかを追求していく。


(2)シンポジウム

シンポジウム「学校英語教育を考える3つの視座:成長する教師・自立する学習者・進化する授業」は実に刺激的でした。

とりわけ,広島大学の柳瀬陽介教授の発表「コミュニケーション・モデルの再検討から考える英語教師の成長」は,その深さにおいて圧倒されました。

幸い,柳瀬先生の発表スライドおよびレジュメは以下からダウンロードできます。
私が知る限り,コミュニケーションの本質をこれほど深く考察した研究は他にありません。

なお,柳瀬先生には博士論文をもとにした好著『第二言語コミュニケーション力に関する理論的考察―英語教育内容への指針』(溪水社,2006年)などがあります。


(3)研究発表

今回は珍しく司会が当たらなかったこともあり,自分が気に入った研究発表をたくさん拝聴することができました。

一つひとつ紹介したいのですが,ここでは福井県立高校の森一生先生による発表「『授業は英語で』は本当に可能か」についてだけ言及させて頂きます。

森先生は前任校・現任校で「できるだけ英語を使って教えてきた」そうです。

その結果は・・・・レジュメ冒頭の次の文字に釘付けになりました。

「従来型の文法訳読式で実施されている他のクラスよりも平均点が10~20点低いという現象が起きている。」

先生の発表は,実践に基づいてデータを収集し,統計的に分析したすばらしいものでした。

ハンドアウトには,Yamada & Hristoskava (2011) Teaching and Learning English in English in Japanese Senior High Schools: Teachers’ & Students’ Perceptions.(『福井県英語研究会「会報」』第69号)による福井県内の生徒・教師の意識調査の結果(下記)も紹介されていました。

「英語での授業」に関する生徒へのアンケートでは,各項目に「全くその通り」「ほぼその通り」と答えた生徒の割合は以下の通りです。

「すべて英語でされると困る」 進学校 72.7%,実業系 77.3%

「説明は日本語でしてほしい」 進学校 81.5%,実業系 87.5%

「重要事項が理解されないことがある」 進学校 74.5%,実業系 63.3%

「英語嫌いな子がますます英語嫌いになるかもしれない」 進学校 67.1%,実業系 61.4%

会場では,同論文を書かれた仁愛大学の山田晴美先生にもお目にかかることができました。
先生からはメールで,同論文がネット上からダウンロードできることを教えて頂きました。


さて,森先生の研究は論文としては未発表ですので,詳細な内容紹介は控えます。
ただ,結論の一つは以下の通りです。

「『英語の授業は英語で』が自己目的化してしまってはいけない。生徒の理解程度はどうか,満足度はどうか定期的に確認し,自分の授業を振り返り今後の授業をどう行っていけばよいのか考える必要がある。」

残念ながら,一部では「授業は英語で行う」ことそのものが目的となっているかのような研修会や現場への「指導」が行われています。

その意味で,森先生のご意見は大いに拝聴するに値します。
論文化が本当に楽しみです。

森先生らのように,「授業は英語で」についてはデータに基づく検証が必要であり,その成果を確認してから方針化を議論すべきでした。

そした実証データもない「思いつき」のような方針では,生徒も先生も疲弊します。

そんな思いを強くする発表でした。