希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

格差に抗し,全員を伸ばす英語教育へ(6)

本日9月1日,ブログ開設3周年を迎えました。

これからも,どうかよろしくお願い申し上げます。

さて,外国語(英語)教育に関係する新学習指導要領の特徴と問題点について,簡単に述べたいと思います。

(1)小学校の新学習指導要領

2011年度から外国語活動が5・6年生に週1コマ必修化されました。
早く始めれば「英語が話せるようになる」という幻想に基づく方針です。

すでに多くの問題点が浮上しています。
まず,小学校段階で英語ぎらいが増えてしまったようです。

ベネッセ教育研究開発センターの調査(2009)によれば,「中学校に入学する前,中学校で英語を学ぶことが楽しみでしたか」に対して,「楽しみでなかった」が53%と過半数を超え,「楽しみだった」の42%を上回っています。

中学校入学直後の授業の工夫が,これまで以上に重要となっていると言えるでしょう。
とはいえ,これは小学校の先生にとっては実に重い負担です。

小学校の学級担任の68%が「外国語活動に自信がない」と回答し,「英語専門教員が教えるべき」との回答は73%に達しています(読売新聞2011年2月15日)。

予算カットにより,主たる教材だった『英語ノート』は1年限りで廃止され,Hi, Friends!に代わりました。
授業プランを,また作り直さなければなりません。

それでもやるしかない現状では,当面の策として3点を提案したいと思います。

(1)授業の大半を日本語で進めてもよいから,ことばの面白さと奥深さに気づかせる場にしましょう。

ゲームや音声指導だけでは飽きてしまいますから,知的好奇心を刺激する文字指導や比較文化なども取り入れてもよいでしょう。

ちなみに,現行では3年生の国語科で訓令式ローマ字を教え,5年生から外国語活動でヘボン式表記による英語を教えます。
つまり,3年生でtiと習ったと思ったら,5年生でchiになるわけです。(もっとも外国語活動では,あまり文字は教えるなと言われますが。)

こんな矛盾した縦割り行政はやめて,一貫した方針にすべきでしょう。

(2)無理な教え込みが英語ぎらいを増やしてしてしまいます。
教師自身が楽しめて,ストレスをため込まない範囲の指導で,英語ぎらいを最小限に抑えましょう。

(3)ALTや専科教員の加配,英語担当者への本格的な研修を保障させましょう。

外国語活動の必修化をめぐっては中教審でも賛否が分かれ,中途半端な「領域」にとどまりました。
次期の学習指導要領で「教科」に昇格させる動きもありますが,無謀すぎます。

内容の大幅改編または廃止を視野に入れ,外国語活動の問題点について現場からの声を上げていきましょう。

(2)中学校の新学習指導要領

本年4月から実施される学習指導要領は,以前よりも改善された面があるようです。

授業時数が週4時間に戻され,会話偏重を是正して「読む」「書く」を含めた4技能の総合的な育成を打ち出しました。

文科省は「聞くこと,話すことを中心とした実践的コミュニケーション能力の育成」という過去の方針が重大な誤りであったことを率直に認めるべきです。

文法指導の強化,語彙の3割増,既習事項の反復,辞書指導の強化,小学校外国語活動への留意なども盛り込んでいます。

以前に紹介したように,和歌山県学力診断テスト(英語科)の2004~08年度の平均正解率を見ると,「読むこと」の成績が低く,「書くこと」に至っては中1の正解率が50%,中2が38%,中3では12%(つまり大半が無回答)という深刻な実態です。

文法指導がいかに重要かを再認識すべきです。

興味を喚起する工夫をしながら基本的な文法や語順などを理解させ,グループでの協同学習(後述)や自己表現活動などを取り入れた指導が重要になるでしょう。

なお,授業時数が4時間に増えた分に見合った正規教員の増員,少人数授業,自治体雇用のALT拡充などが急務であることを訴えましょう。
現状では多忙化がさらに進んでしまいます。

(3)高校新学習指導要領

史上最悪の学習指導要領となりました。

オーラル偏重がいっそう進み,「リーディング」や「ライティング」の科目が廃止されます。
7科目すべてが大幅に再編され,教員の負担は一段と重くなります。

最も問題なのは,中教審外国語専門部会での審議も経ないまま,「授業は英語で行うことを基本とする」と決めてしまったことです。

理論的にも実践的にも重大な誤りであり,現場知らずの非現実的な方針です。

批判を受けてか,文科省の『学習指導要領解説』では少し軌道修正して,「日本語を交えて授業を行うことも考えられる」と明記していますから,これをふまえ,生徒の実態に寄り添った現実的な指導が重要でしょう。

ただし,旧態依然たる文法・訳読一辺倒の対面型一斉授業だけでは,生徒の学びは深まりにくいでしょう。
そのために,ICTの活用や協同学習を取り入れるなどの工夫が必要だと思います。

高校の英語の授業を参観して思うのは,教師の解説中心の授業スタイルがあまりにも多く,生徒たちの学びの質が低いことです(もちろん,個人差はありますが)。

それを裏打ちするかのように,ベネッセ教育研究開発センターの「学習指導基本調査(高校版)」(2011年4月発表)によれば,「教師からの解説の時間」を重視すると回答した高校教員が48%と最多で,中学教員(24%)の2倍です。

他方,「生徒が考えたり話し合ったりする時間」を重視する高校教員は,わずか20%(中学教員は42%),「生徒の発言や発表の時間」を重視する高校教員も25%(中学教員は最多の47%)と少ないのが現状です。

つまり,小グループによる協同学習などの指導形態が進む中学校に比べ,高校では依然として教師主導の解説中心の授業が多いのです。

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高校に限らず,教師が一方的に解説すればするほど,生徒の学びは浅くなるようです。
生徒が「引いていく」,といった感じでしょうか。
そうした授業では,しばしば「内職」や「居眠り」が横行しています。

先に見たように,高校の英語科では,2013年度より「授業は英語で行うことを基本とする」となるため,気をつけないと「教師の英語による解説中心の授業」となり,英語がわからない生徒が急増する可能性があります。

じっさい,高校での「英語による授業例」をDVDなどで拝見すると,教師による英語の語りがあまりに多いのに暗澹たる思いになります。
生徒主体にならないのです。

学習意欲の低下や低学力を克服するためには,旧来型の一方通行的な授業スタイルを改め,生徒同士の学び合いや協働的な活動を中心にした指導方法へと転換する時期に来ているのではないでしょうか。

高校で,特に進学校でそれを実行するのはきわめて困難ではあっても,やるしかありません。

(つづく)