希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

英語科における協同学習の原理と実践(3)基本原理(Part1)

協同学習の基本原理 (Part 1)

協同学習とは、一人では達成困難な高いレベルの課題に対して集団で協同的に取り組むことによって、学習者同士が学び合い・高め合う学習形態である。

協同学習は人種的偏見や学力格差を克服する方法として、米国などから世界に広がった。
日本では戦前の生活綴り方運動や戦後の無着成恭による「山びこ学校」の実践、バズ学習など、学習集団作りの伝統がある。
近年は、第1回で紹介した佐藤学が提唱する「学びの共同体」作りが全国的な広がりを見せている。

外国語教育の領域では、協同学習の原理と共通点をもつ英語教授法としてHumanistic Language Teaching (HLT)がある。
Moskowitz (1978)は、言語は他人との関係を構築し、社会的交渉を行うための方法であるとの考えに基づき、言語教育の社会的・集団的な側面を強調した。その上で、教育は教師が「教え込むこと」から学習者が主体的に「学ぶ」ことへシフトすべきであると提唱している。
また、学習者自身および他者とのコミュニケーションを通して、自分自身とクラスメートに対する肯定的な気持ちを育て、友好的な人間関係を築かせることを重視する。

協同学習の原理と実践例については、Johnson & Johnson(2001)や佐藤学(2006)をはじめ、様々な見解がある。
これら私なりに整理し、日本の英語科で実施可能な協同学習の基本原理を以下に9点(うち今回は3点)提示したい。

*Johnson, D. W. & Johnson R. T. 関田一彦(監訳)(2001)『学生参加型の大学授業:協同学習への実践ガイド』玉川大学出版
**佐藤学(2006)『学校の挑戦:学びの共同体をつくる』小学館

 (1)肯定的な支え合い
高い目標に向かって、仲間同士が良好な人間関係を築きながら肯定的に依存し合う関係(positive interdependence)を形成する。これは協同学習の最も重要な原理である。
教え合い、学び合いを通じて全員が高め合う。そのために、気軽に話しかけられ、安心して間違いや失敗ができる教室環境作りが大切である。
「教えることは学ぶこと」であり、相手に教えることが自分の頭を整理し、学びを深める行為であることを理解させることも必要である。

 (2)小集団でのコミュニケーション能力の錬磨
相手の意見をよく聴き、自分の意見を的確かつ受け入れやすいように伝える技術を学ばせる。
言葉づかいを丁寧にし、とりわけ荒れた子どもには丁寧な言葉で接する。
母語による話し合いが基本になるが、必要に応じて英語の使用も促す。
学習指導要領が謳う「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度」の育成には、競争的な環境ではなく、こうした対話的なコミュニケーション環境作りが必要不可欠である。

 (3)個人の責任の明確化
ただ乗り的な依存心を断ち、各自に責任を果たさせる。
そのために、これまでのグループ学習とは異なり、班長のようなリーダーは決めない。
ただし、当初は人任せにして責任を果たさない生徒がいる場合が少なくないので、ジグソーなどの一人が欠けても成立しない活動を通じて、個人の責任意識を高めることが必要である(ジグソーについては日本語版もあるJacobs, et al. (2002)を参照)。
また、各自の多様な考え方を尊重するために、意見統一を求めない。

*Jacobs, G. M. et al. (2002)The Teacher's Sourcebook for Cooperative Learning : Practical Techniques, Basic Principles, and Frequently Asked Questions. orwin Press.
(日本語版)伏野久美子・木村春美訳(2005)『先生のためのアイディアブック:協同学習の基本原則とテクニック』日本協同教育学会)

(つづく)