希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

英語科における協同学習の原理と実践(4)基本原理(Part 2)

協同学習の原理 (Part 2)

前回の続きです。

(4)卓越性
一人の力では到達できないような高いレベルの課題を設定し、目標達成のためのコミュニケーション力と、助け合いによる人間関係力を共に成長させる。
その理論的背景には、ヴィゴツキーの「発達の最近接領域」の考え方がある。
小学校の外国語活動や中学校の英語科においては浅薄な日常会話中心の授業が主流となり、内容(コンテンツ)に乏しいため、学びの質を高めにくい。そのため、佐藤(2009:240)によれば、「学びの共同体」作りなどの授業改革が最も難しい教科が英語科であるという。
この現状を克服し、「背伸びとジャンプ」(卓越性)を可能にするためには、語彙や文法・文型といった言語材料の面のみならず、平和、民主主義、人権、環境、言語文化、人間愛など深みのある題材を使用することが重要である。

佐藤学(2009)「言語リテラシー教育の政策とイデオロギー大津由紀雄編著(2009)『危機に立つ日本の英語教育』慶應義塾大学出版会

(5)グループによる振り返り
自分たちが行ったグループ活動を集団で振り返り、次の活動がさらにうまくいくよう課題や問題点の解決法を確認し合う。
個人での振り返りはよくあるが、グループ単位で振り返ることによって、問題意識を共有化することができる。もちろん、意見に温度差があってもかまわない。

(6)教師主導のグループ作りと机の配置
グループは男女混合で4人が望ましい。5人以上では誰かがリーダー的存在になってしまう傾向がある。
ペア学習なども適宜取り入れる。ペアやグループの構成は生徒の成績や人間関係などを考慮して、教師主導で作る場合が一般的である(詳細は三浦孝ほか2006:246参照)。
生徒の希望に任せると、「おしゃべりグループ」化や、孤立してしまう子も出てくるので注意が必要だ。
教員が全生徒と近距離で接し、生徒同士の聴き合う関係を作るために、机の配置はコの字型に配列し、適宜4人グループに移行させる。

*三浦孝ほか(2006)『ヒューマンな英語授業がしたい!―かかわる、つながるコミュニケーション活動をデザインする』研究社

(7)学びを深める教師に
教師は生徒の学びの深まりを妨げないようテンションを下げ、声も小さくする。
かつては「教師は元気溌剌と声を大きく」などと指導していたが、教室が騒々しくなり、深い学びを妨げる場合が多い。
指導案はシンプルにする。そうすることで、子どもとの関わりを濃密にする。
教師は「授業のプロ」から「学びのプロ」へと転換する。
教壇にではなく生徒の息づかいが分かる位置に立つ。
すべての教師が授業を公開し、参観では生徒の学びの深まり具合を観察する。
一般には教員の授業能力の優劣を観察しがちであるが、授業がうまくても生徒の学びが浅ければ意味がない。協同学習では子どもの学びが深まっているか否かに焦点を当て、ビデオカメラは前方から子どもの学びの様子に向ける。
事後の協議会では、全員が発言しやすいように少人数のワークショップ方式を取り入れる。

(8)校長の指導力による全校的な取り組み
会議や書類作成などの「雑用」を削減し、週1回程度の授業相互参観と事例研究会を学校経営の中心にすえる。
そのためには、校長のリーダーシップによる全校的な取り組みが必要である。
ただし、すぐには困難な場合には、まずは自分のクラスから始め、成果を示し、教師の同僚性(collegiality)を高めながら全校規模に広げていく。
また、協同学習の技法に習熟するまでは、一斉授業と協同学習を有効に組み合わせるなど、柔軟な授業運営が必要である。

(9)保護者や地域住民の参加
子どもの学びには家庭や地域の協力が欠かせない。
学校がすべてを抱え込むことなく、保護者と地域住民・一般市民と連携し、知恵と労力を出し合うことで、学校を核とした地域的な学びの共同体を組織することが大切である。
そのために、積極的に学校や授業を開放する必要がある。
外国語活動・外国語教育では、留学生、海外駐在経験者、在日外国人などとの交流活動も進めたい。
フランスでは、職員会議に生徒代表と住民代表が参加することが義務づけられているという。
「学びの共同体」には「地域の共同体」が必要なのである。

(つづく)