『英語教育論争史』(講談社選書メチエ)を刊行
第二に、本書は新資料を豊富に交えながら、1880年代から100年以上に及ぶ主要な英語教育論争を通史的・包括的に扱いました。
これまでの定説を書き換える新たな知見や、再評価・再解釈を迫る諸問題も盛り込んでいます。たとえば、以下のことです。
(1)近年の小学校英語教育をめぐる論点が、すでに明治中期には出つくしていたこと。
(2)大正期(1910年代)に始まったとされる中等学校英語科縮廃論が、すでに明治中期(1890年)に開始されていたこと。
(3)英語科廃止論の代表格とされた藤村作をはじめ、様々な論者の主張が先人の二番煎じに過ぎなかったこと。
(4)1974の「平泉試案」よりも1978年の「平泉新提案」のほうが、後の英語教育政策の方向を提示していたこと。
(5)1990年代に本格化した言語帝国主義論が、日本では1930年代から主張されていたこと。
などなどです。
論争は、論文などを通じての人間と人間のぶつかり合いです。
それぞれの理論だけでなく、しばしば感情や人間性がむき出しになします。
そのため、本書では論争を彩った代表的な人々に登場してもらい、その人物像を描くことにしました。
戦前における英語教育の最高指導者で東京高等師範学校(戦後は東京教育大学、廃学後は筑波大学)英語科主任教授の岡倉由三郎、その弟子の福原麟太郎、英語教師でもあった夏目漱石、エスペラントの導入を唱えた国家主義思想家の北一輝、英語科廃止論を唱えた東京帝国大学国文科教授の藤村作、戦後英語教育の義務化を疑問視した評論家の加藤周一、1970年代に大論争を起こした平泉渉と渡部昇一、英語帝国主義論争を展開した中村敬と筑紫哲也・松本道弘などです。
英語教育論争を読み解くと、日本人と英語との関係の根っ子の部分が見えてきます。