希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

「阿原成光と英語教育」

この10月末に発売された田中耕治編著『時代を拓いた教師たちⅡ』(日本標準)に、英語教員としてただひとり、阿原成光さんとその卓越した実践が「阿原成光と英語教育:「人間らしさ」を尊重した英語教育」(pp.113-124)として紹介されています。

執筆者は京都大学大学院教育学研究科助教の赤沢真世さんです。
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僕は阿原さんとは新英語教育研究会50周年記念集会での「対談と討論:どの子も笑顔が輝く英語教育改革」などでご一緒させていただきましたが、生徒のためなら命をかけて闘い実践する「猛牛」のような人だと思い尊敬しています。

その阿原さんが、日本の教育実践史に残る教員として、英語科の枠を超えて高く評価されたことは、一英語教員として、この上なく嬉しいことです。

赤沢論文は以下の4部構成です。

(1)「心の真実を伝え合う人間らしいコミュニケーションを!」
英語が単なる「道具」ではないという思いから、「真実や愛を伝える言葉の教育」としての英語教育のあり方を追い求めた阿原実践のエッセンスが述べられています。
特に、阿原さんが考案した「発声三原則」や、水俣病患者をとりあげた自主教材We Can Standが写真入りで感動的に紹介されています。

(2)「『人間らしさ』が奪われていく時代状況のなかで」
阿原さんの経歴や英語教育界の動向を交えながら、阿原さんが英語教育の「四目的」に導かれ、英語教育が「人間形成にかかわる『ことば』の教育」であり、国際連帯の精神を養う「平和教育」であるという理念に到達した経緯と、その過程での「週三問題」などでの闘いの軌跡が描かれています。

(3)「自己表現と教材:人間的学びと機械的学びの統一」
自己表現こそが英語教育の「究極の到達目標」であること、その背景に、自分自身を語る言葉を奪われた子どもたちの苦しい状況がある(それが校内暴力や「しらけ」として現れる)ことが述べられています。阿原さんの教材論や教育方法論も展開されており、この部分はまさに圧巻です。

(4)「阿原の実践が示唆すること」
著者は「阿原の実践は、『人間的学び』という視点を最重視することによって、英語教育の目的、目標、そして教育内容、方法、評価をすべて問い直すものである」と総括しています。まさに英語教育界の革命的パイオニアとして阿原さんを位置づけです。
その上で、「阿原成光の実践は、英語教育が『何のために』行われ、『何を』『どうやって』子どもたちに伝えるのかということを、私たちにあらためて考えさせるものである。」と締めくくっています。

以上、本日偶然手した本を一読し、感激しつつまとめたために意に満たない点もあろうかと思いますが、取り急ぎみなさんにお知らせする次第です。

阿原実践から大いに学びたいと改めて思いました。

みなさん、一読をお勧めします。


<11月14日追記>
執筆者の赤沢真世先生より、阿原論執筆の思いをお寄せいただきましたので、一部を紹介させていただきます。先生のお考えに深く共感しています。

 子どもたちの現状を丁寧に、そして熱心に見つめられるその姿に、
 ともすれば「選抜教科」となってしまう英語教育ですが、
 そうではない、英語教育の本当の可能性を感じたものです。

 とくに、私の専攻しております教育方法学では、
 英語科に関する蓄積があまりありません。(と、私は感じております。)
 ですので、阿原先生のご実践や、そこから広がる取り組みから
 多くのことを学びたいと思っております。