希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

7.11慶應シンポ 英文解釈法の歴史的意義と現代的課題(1)

英文解釈法の歴史的意義と現代的課題(その1)

7月11日に慶應義塾大学三田キャンパスで開催される言語教育シンポジウム「英文解釈法再考:日本人にふさわしい英語学習法を考える」がカウントダウンとなりました。

予想をはるかに上回るペースで定員200名の席が埋まり、補助席を足しても来場者に座って頂けるかが心配です。


ドキドキ。

誤ったオーラル重視のESL的な英語教育政策によって、子どもたちの英語力が著しく低下している現状を問い直し、EFL環境にある日本人にふさわしい英語学習法とは何かを、「英文解釈」をキーワードに再考してみたいと思います。

そこで、当日配布するパンフレットのために執筆した私の講演「英文解釈法の歴史的意義と現代的課題」の要旨を、9.11シンポに先立ち、掲載させて頂きます。

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【講演1】「英文解釈法の歴史的意義と現代的課題」 江利川 春雄(和歌山大学

 「日本の英学の歴史が生んだもっとも独創的な業績の一つ」外山滋比古、1979)と言われる英文解釈法。明治期から日本人の英語学習の中核となってきました。

 しかし、近年その評判は悪いようです。
2009年に告示された高校の新学習指導要領では「授業は英語で行うことを基本とする」として訳読を否定し、「英文法」の検定教科書に続いて「リーディング」や「ライティング」の科目まで廃止しました。

 でも、英文解釈法や和訳は、本当に「悪」なのでしょうか。
 もしそうならば、なぜ今日まで根強く生き続けているのでしょうか。
 逆に、会話重視へと転換した下で、生徒の英語力が低下し続け、英語嫌いが増えているのはなぜでしょうか。

 明治期からの日本人の英語学習史を振り返ることで、英文解釈法への誤解と冤罪を晴らし、名誉を回復したいと思います。

 日本人にふさわしい英語学習法としての英文解釈法の歴史的な意義を再評価し、現代的な課題を考えてみましょう。

1. 「英文解釈法」とは何か?

 「英文解釈(法)」という言葉を聞いたことのない学習者はまずいないでしょう。

ところが、現在市販されている『応用言語学事典』(研究社、2003)や『英語教育用語辞典』(大修館、2009改訂新版)など数冊の専門辞典を開いても、この用語は解説されていません。
 「英文解釈」など学問の対象ではないとでも言うのでしょうか。

 「英文解釈」の定義が載っていたのが、ほぼ半世紀前の福原麟太郎編『英語教育事典』(研究社、1961)で、次のように書かれています。

 第一には、英文の語句の意義や文法上の関係などを明らかにする作業をいう。「英文講読」「英文和訳」といわれるものの大半の作業はこれである。
 第二には、英文和訳と区別して、いわゆる翻訳(translation)の前提としての解釈(interpretation)を強調していう場合がある。根本的には第一と変りはないが、「和訳」と「解釈」とを使い分ける点が目立つ。「解釈が徹底すれば、和訳する必要はない」というのは、たとえば「flightとは階段全体をいうときの単位(unit)であって、個々の段はstep, stairという。a flight of stairsというのはa series or set of stairsのことである」と説明すれば、そのflightに当る日本語を求める必要はない、ということである。かりにこのような理解と各語句の文法上の関係が明らかになることによって、与えられた英文の意味が分るとすれば、いわゆる「和訳」の必要はなくなるであろうが、実際には「解釈」が部分的に行われるだけである。→直読直解。

 必ずしも「英文解釈 = 英文和訳」ではないと明確に述べている点は卓見で、歴史的な事実にも当てはまります(後述)。

 「英文解釈法」は、Grammar - Translation Methodや文法訳読法と同義ではないのです。

 では、英文解釈法が根強い支持を集めるのはなぜでしょうか。

 一言で言えば、千年以上をかけて日本に定着した、日本人にふさわしい外国語学習法だからです。
 この重みを無視するから、教授法改革は成功しないのです。

(つづく)