希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

7.11英文解釈シンポの報告

7月11日に慶應義塾大学で開催されたシンポジウム「英文解釈法再考:日本人にふさわしい英語学習法を考える」について、同大学大津ゼミ院生の永井さんが、たいへん素晴らしい報告記事を書いてくださっています。

大津研blog ↓


全文は上記のサイトでお読み頂くとして、永井さんの文章の内、シンポの概要と私(江利川)のプレゼンに関する部分を、感謝を込めて、引用させて頂きます(改行を増やしたことをお許し下さい)。

英文解釈シンポジウムを終えて

7月11日に慶應義塾大学三田キャンパスにて英文解釈シンポジウムが開催されました。
今回は 250人という決して少なくはない定員でしたが、当日もほぼ満員と、多くの方にご参加いただきました。
スピーカーとして、江利川春雄先生(和歌山大学)、斎藤兆史先生(東京大学)、大津由紀雄先生(慶應義塾大学)の三人の先生方を迎えたシンポジウムは、始終熱気に包まれ、終盤にはフロアと登壇者による活発なやりとりも見られました。
ここに、その備忘録として、簡単にシンポジウムのご報告をいたします。

 まず最初にお話いただきましたのは江利川春雄先生です。
 江利川先生は、そのご著作を一読すればすぐに分かるように、様々なデータに基づいて、綿密に、実証的に英語教育にアプローチされておられる研究者です。
 ご講演は、まさに噂に違わぬ、実証的で地に足のついた内容でした。江利川先生の議論の流れとしては、大きく、①「英語力低下の実態」②「英語力低下の原因について」③「改善策」とまとめることができるかと思います。

 まず①ですが、詳しいデータの内容は、江利川先生のご発表資料をご覧いただくとして、ここではごく簡単に述べさせていただきます。

 日本の学校英語教育は、いわゆるコミュニケーション重視の指導要領(1995年全面実施)に移ってから、11年連続で高校入学時の英語学力が低下、偏差値換算で7の低下が見られます。また、センター試験和歌山県の学力テストでも気になる変化が見られ、国教研の調査では、英語嫌いが増えているという状況が明らかにされました。

 ①の実態を踏まえて議論は②に移ります。
江利川先生は、英語力低下の問題は、日本の英語教育が、EFL環境である日本に対して、ESL環境で行われるべき教育を応用しようとしたところに根本的な誤りがあり、また、日本の英語教育において、Cumminsが提唱した、BICSとCALPの認識自体、そして、それらに応じた指導が不十分であることも誤りの一因となっていると指摘します。
 そのことから、EFL環境である日本においては、母語である日本語を活用することが有効であり、それがCALPの育成にも有効であると述べられました。

 そして②とも絡む③ですが、ここにおいて本シンポジウムと直接関わる「英文解釈法」が登場します。
 江利川先生は、「英文解釈」という言葉自体の定義から始まり、そして、歴史的に重要であった、英文解釈の参考書を多数取り上げ、それらがいかに日本の英語教育を良い意味でも悪い意味でも支えてきたかを語ってくださいました。
 それにしても、先生のご講演の中で、何十年も前にすでに、英語学習の核心をついた言明が多数なされていたことに気づくたび、先人たちの鋭い言語感覚に驚かされるとともに、歴史から学ばない、新しいもの好きの現代(英語)教育の危険性も感じました。

 さて、江利川先生の言葉を借りると、英文解釈法は「古代の漢文訓読法にルーツを持ち、明治の先人たちによってEFL環境の日本にふさわしい学習法として体系化された「日本の英学の歴史が生んだもっとも独創的な業績の一つ」である」ように、もともと日本人の英語学習にとって最適な、体系化された方法論です。
 ですが、現状は、そのような認識はあまり浸透しておらず、むしろ「訳読」と同じようなニュアンスで、不当に英文解釈が悪者扱いされていることはないでしょうか。(「訳読」と「解釈」は決して同じものを指しているわけではありません。) 
 言うまでも無く、英文解釈なしに英文理解はあり得ないわけですから、英語教育における英文解釈(法)の有用性を(再)認識することがまず大切であり、その方法論については歴史から学ぶ姿勢を大切にし、それを現在の授業の中で、自分なりに発展させていくような、「英文解釈(法)」の積極的利用、そしてそれ自体の研究が今後重要になってくるでしょう。

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このあと、斎藤兆史さん、大津由紀雄さんのプレゼン概要が続き、安井稔先生(東北大学名誉教授)のコメントなどが紹介され、最後に永井さんの感想が述べられています。これがまた見事です。

永井さん、本当にありがとうございました。