希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

待望の『市河三喜伝』(研究社)刊行

研究社の吉田尚志社長から、神山孝夫先生(大阪大学)の新著『市河三喜伝:英語に生きた男の出自、経歴、業績、人生』(研究社、14,300円)を恵贈いただきました。

誠にありがとうございました。

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英語に関係する者にとって、市河三喜(1886-1970)は富士山のような存在です。

その市河に関する待望の評伝を出されましたことは、まさに快挙です。

日本英語教育史を学ぶ者として、これほど嬉しいことはありません。

実に丹念に資料に当たられ、副題にありますように「出自、経歴、業績、人生」をトータルに描かれた卓越したご研究に、深く敬意を捧げます。

それぞれの記述に出典を明示され、詳細な脚註を施し、それでいて実に読みやすい文章だと思いました。

ところどころでユーモアを感じますし、先へ先へと読み進んで行きます。

と同時に、面白くて「読み終えてしまうのがもったいない」という思いにも駆られます。

お子さんや奥様を亡くされるところの描写は、ほとんど文学であり、読んでいて目頭が熱くなりました。

私は市河三喜のお嬢様である野上美枝子さんにお目に掛かったことがあり、資料を頂いたこともありましたが、いつも笑みを絶やさない方なのに、これほど哀しい歴史を背負っておられたとは。

英学者の伝記としては、大村喜吉先生の名著『斎藤秀三郎伝』が1960年に出ており、毎日出版文化賞を受賞されていますが、神山先生の『市河三喜伝』はそれに匹敵するご業績ではないかと思います。

今年3月には平田諭治先生の『岡倉由三郎と近代日本:英語と向き合う知の軌跡』(風間書房、12,100円)も出されました。

日本英語教育史における二大巨星の評伝が出そろったことになります。

ぜひ両書を活用し、日本英語教育史を深め、混迷する日本の英語教育の展望を見出しましょう。