希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

追悼 梶木隆一先生

東京外国語大学名誉教授の梶木隆一先生が,5月6日に心不全で逝去された。享年101歳。

梶木先生は1910(明治43)年に東京で生まれた。
東京高等学校を経て,1933年に東京帝国大学英文科を卒業され,同大学院に入学。
1935年から東京帝大助手,1937年に成城学園講師,1941年に陸軍予科士官学校教授となり,1942年から東京外国語学校教授。第一高等学校などでも英語を教えた。

戦後は1950年に東京外国語大学助教授,55年に教授となり,1973年の定年後は明星大学教授。

また,語学教育研究所理事長,大学英語教育学会会長,日本英語検定協会会長などをも歴任された。

この間,数多くの英語参考書や教科書の執筆に携わり,駿台予備学校でも教えた。

私自身,梶木先生の『英語の基礎』(旺文社、1957年初版、1969年四訂版の重版)にはたいへんお世話になった。
この本と出会わなかったら,いまこうして英語教師をしていなかったかもしれない。

2009年12月に始まり,思いのほかブログ長期連載となった「懐かしの英語参考書」の第1回が,この『英語の基礎』だったのは偶然ではない。

この連載が一つのきっかけとなり,2011年3月には拙著受験英語と日本人:入試問題と参考書からみる英語学習史 』(研究社)が誕生した。

同書から,『英語の基礎』と私との出会いの部分(第5章)を引用させていただき,梶木先生への感謝の言葉としたい。

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梶木隆一『英語の基礎』――「苦手」を「好き」に変えた本

文法を中心に、文字通り英語の基礎をわかりやすく説いた本。
初版は1957(昭和32)年で旺文社の発行。

私は1969(昭和44)年の4訂版を愛用した。
中学を出て5年制の工業高等専門学校機械工学科に進学したのが1971(昭和46)年。
私を待ち受けていたのは、厳しい寮生活と、猛烈に進度の速い授業。

英語を担当されたのは東京高等師範学校の青木常雄門下だった本多俊男先生ほか、いずれも東京教育大系の熱心な先生たちだった。
ネイティブの先生はもちろん、日本人でも英語だけで授業を進める先生もいた。

1年生の1学期で私は英語の授業についていけなくなった。

夏休みに帰省したとき、できるだけやさしそうな参考書を買い、とにかく最後までやることにした。
それが、この『英語の基礎』だった。

わかりやすい。
読んでいくと、赤ん坊が母乳を飲むように、みるみる血と肉になっていった。

巻頭には「英語の効果的な学び方」が8ページにわたって書かれている。
噛んで含めるような調子だ。
本文は2色刷りで読みやすく、説明も平易。
練習問題も控えめで、効果的なヒントがありがたい。

夏休みが終わり、学校にもどった。

不思議なほど英語がわかるようになっていた。
基本的な文法が頭に入り、英語のしくみが見えるようになったのだ。

こうして英語好きになった私は、英語教師になり英語教員を養成している。

この本に出会わなかったら、今ごろ技術者としてロボットでも作っていたかもしれない。

梶木隆一の人と業績については、自伝『縁に恵まれて:私の履歴書(私家版、1997)に詳しい。

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梶木隆一先生,ありがとうございました。

安らかにお休みください。

合掌