希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

教育再生実行本部の「提言」全文入手

「大学入試にTOEFLを」などを盛り込んだ自民党教育再生実行本部」の「成長戦略に資するグローバル人材育成部会提言」の全文を、ようやく入手することができました。

4月13日の本ブログ記事では、「『提言』の全文はまだ一般公開されていないようなので、現時点では各種の報道を情報源とした反論であることをお許しください」と書きました。

しかし、これでようやく「提言」の原文に即して議論ができます。(*マスコミに手渡した段階で、一般にも公開してほしかったです。)

さて、「提言」では、冒頭の総論部分で次のように述べています。

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安倍内閣の掲げる教育再生には、人材養成が不可欠。
成長戦略実現上、投資効果が最も高いのは教育。

●結果の平等主義から脱却し、トップを伸ばす戦略的人材育成
●学び直しや土曜日の活用などによる徹底した底上げ

*その下に小さく「教育再生実行のためのOECD諸国並の教育投資を実現」と書かれています。
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特に注目されるのは、「結果の平等主義から脱却し、トップを伸ばす戦略的人材育成」と明
記しています。つまり、徹底したエリート育成で行くという方針です。

ここまで言い切ったのは、おそらく初めてのことではないでしょうか。

今回の「提言」で、語彙数が1万語をはるかに超える難解なTOEFLが前面に出た背景には、このトップ・エリートを伸ばす、という戦略的な方針があるようです。

さて、注目される「1. 英語教育の抜本的改革」の本文は以下の通りです。

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1. 大学において、従来の入試を見直し、実用的な英語力を測るTOEFL等の一定以上の成績を受験資格及び卒業要件とする
 世界レベルの教育・研究を担う大学を30程度指定し、その学生の卒業要件をTOEFL iBT 90点相当とするとともに、集中的な支援によりグローバルに活躍する人材を年10万人養成

2. 高等学校段階において、TOEFL iBT 45点(英検2級)等以上を全員が達成する

3. 国家公務員の採用試験において、TOEFL等の一定以上の成績を受験資格とする

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「国家公務員の採用試験において、TOEFL等の一定以上の成績を受験資格とする」と言うならば、まず安倍首相をはじめ、国家公務員である国会議員の全員にTOEFLの一定以上のスコアを求めるべきでしょう。

というツッコミはやめて・・・

以上の下に、「提言を実現するための施策」が12項目にわたって書かれています。
長いですが、あえて全文を原文のまま引用します。

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提言を実現するための施策

・英語教師について一定の英語力(TOEFL iBT 80点(英検準1級)程度以上等)を採用条件
・求められる英語力を達成した教師の割合を都道府県ごとに公表
・外国語教師を目指す者全員に養成段階に於ける留学機会を付与
・現職英語教師全員が今後5年間にの間に国内外で研修受講
・少人数指導等のための教師の増員

・小・中・高等学校における英語教育を抜本的に改革・強化、その一環として学校教育において英語に触れる時間を格段に増加(土曜日の活用、イングリシュ・キャンプ、タブレットPC等の活用)
・日本の伝統や文化など、日本人として必要な教養を身につけ、国際的に発信できる力を育成
・海外留学費用の負担軽減のための支援の抜本的拡充(予算及び税制)
・入試における帰国子女枠等において短期の留学も積極的に評価

・世界のトップ大学に進学できるコミュニケーション能力・論理的思考力などを備える人材を育成する「グローバル・リーディング・ハイスクール」(仮称)を各都道府県に最低1校ずつ整備し、その中で英語授業の改革も支援

・授業の半数以上を英語で実施、留学生交流促進を行う30程度の大学を重点的財政支援校に指定
・大学学部レベルにおいて、業務上英語を実践的に活用できる人材育成を目的とした教育プログラムを開発する100程度の大学を支援校に指定

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さて、明日の授業準備もあり、今回は「提言」の英語教育改革の部分に関する正確なテキストを提供するにとどめたいのですが、やはり一言だけ。

冒頭に見たように、「提言」は全体の目的がトップ・エリートの育成に特化しています。

しかし、多くの先生は、英語が苦手で嫌いな子どもたちをも見捨てずに、たいへんな苦労をしながら日々頑張っています。

憲法は、「教育の機会均等」という原則を定めています。

この「提言」が実施されたならば、大半の子どもたちは切り捨てられてしまうのではないでしょうか。

そうした子どもたちと向き合う先生たちは、「ダメ教師」の烙印を押されてしまうのではないでしょうか。

それとも、子どもたちを見捨ててでもTOEFLの勉強をしろ、と言うのでしょうか。

シンボルとしてTOEFLを前面に出すことの裏に潜む、こうした「教育観」こそ、私はもっとも危険だと感じています。