希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

「大学入試にTOEFL」の黒幕は経済同友会

5月1日の朝日新聞で、自民党教育再生実行本部代表の遠藤利明衆議院議員(元文部科学副大臣)と「争論 大学入試にTOEFL」と題した紙上ディベートを行いました。

自民党「提言」の代表者である遠藤議員がTOEFLを受けたこともなく、試験の内容もよく知らないまま
「提言」を出したのだろうと思っていましたが、やはりその通りでした。

それ以上に驚いたのは、彼の次の発言です。

「グローバル時代の政治家として国会議員もTOEFLを立候補要件にしてはどうか、ですか。そういう声も聞きます。でも、政治家とは英語力がないと務まらないのかどうか。」

しかし、彼はディベートの前半で、次のように言ったではありませんか。

「私も副大臣政務次官として国際会議に出ました。公式な会合は通訳がつきますが、大事なのはその前のあいさつから始まって、夜のパーティーとか、みんなでわいわいやっている場での会話です。それが次の会合に生きてくる。でも悔しいことに英語で話せない。」

政治家が集まる国際会議では、公式の会合の後の「夜のパーティー」などでの(英語での)会話が大事だと言っているではありませんか。

何よりも、彼が安倍首相に提出した「提言」には、次のような方針が明記されています。

「国家公務員の採用試験において、TOEFL 等の一定以上の成績を受験資格とする」

遠藤議員を含む国会議員は、純然たる国家公務員です。
まして、世界の首脳たちと渡り合わなければならない職責があります。

「提言」には、「高等学校段階において、TOEFL iBT 45 点(英検2級)等以上を全員が達成する」という恐ろしい方針を盛り込んだのに、自分のことになると「政治家とは英語力がないと務まらないのかどうか」と逃げたり、「受けても10点ぐらいでしょう」と居直る。

これでも国会議員ですか。
あまりに卑劣ではないでしょうか。

すみません。
紙上ディベートの「場外乱闘」のようになってしまいました。

本題は、このあとなのです。

まずは、次の疑問から。

・遠藤議員を代表とする自民党教育再生実行本部の人たちは、なぜ「TOEFLを大学入試に」と言いながらも、TOEFLのことも知らず、議論が支離滅裂になるのか。

・なぜ教育再生実行本部の議事録を見ても、英語教育についてまともに議論した形跡がないのか。

実は、「入試にTOEFLを」という方針は、遠藤議員を長とする実行本部の人たちが議論を積み重ねて打ち立てた方針ではないのです。

この方針を出した司令塔は、4月13日の本ブログでも指摘したように、楽天三木谷浩史社長兼会長を委員長とする経済同友会の「教育改革による国際競争力強化プロジェクトチーム」なのです。

そう、黒幕は、あの「英語社内公用語化」を強行した三木谷氏です。


ですから、朝日紙上での遠藤議員の支離滅裂な発言は確かに嗤うべきレベルですが、本当の敵は遠藤氏の背後にいる経済同友会、つまり日本の財界の巨大な権力です。

その経済同友会が、4月22日に「実用的な英語力を問う大学入試の実現を~初等・中等教育の英語教育改革との接続と国際標準化~」を政策提言しました。


経済同友会の政策提言の本文と資料は以下の通りです。


自民党の「提言」と骨格は同じですが、ずっと精緻であり、理論武装しています。

2002年に文部科学省の名前で出された「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」は、財界の本丸である経団連の「グローバル時代の人材育成について」(2000年)を具体化したものでした。

翌2003年からは5年間の「行動計画」が実施され、英語教育への強制研修や、「スーパー・イングリシュ・ハイスクール」(SELHi)、英検・TOEICTOEFLの受験などが奨励されました。

今回の自民党の「提言」も、経済同友会という財界が推し進める「カネになる英語人材」の育成策なのです。

その焦点は、大学入試へのTOEFLの導入です。

大半の高校生にとってTOEFLが難しすぎることは、彼ら自身がよく知っています。

しかし、財界やグローバル企業がほしいのは、ほんの一握りの英語が使えるエリートだけで、他の子どもたちの教育は視野にありません。

だから自民「提言」では、「結果の平等主義から脱却し、トップを伸ばす戦略的人材育成」と明記しているのです。

(ただし実際には、楽天などでも英語ができても仕事ができない若手社員が問題になっているのですが。)

自民と経済同友会の「提言」が、どれほど公教育を歪める危険な方針か。

英語教育関係者はもとより、教育関係者、子どもの未来を考えるすべての国民が、早急に対策を考え、行動しなければならない問題なのです。

特に、英語教育研究者は、日ごろの研究の成果を、今こそ誤った「国策」を打破するために活かすときではないでしょうか。

沈黙は加担です。

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