希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

検証・論証なき現場攪乱をやめさせよう!

見当違いの「英語教育再生」方針を再生すべく、大津由紀雄さん、斎藤兆史さん、鳥飼玖美子さんと江利川の「4人組」が都内で秘密会合(?)を開いたのが、4月28日。

この前後の2カ月は、まさに激動の日々でした。

例の「大学入試にTOEFL」などという方針については、学校の英語科教育はどうあるべきかという根本問題に触れながら、私のブログでもかつてないほど活発に議論が展開されています。

なのに、コメントがほとんどできなくて、申し訳なく思います。

が、いまはとにかく4人組ブックレット『英語教育、迫り来る破綻』ひつじ書房、6月末刊行予定)の完成を優先させてください。
現在は初校が済んだ段階です。ふー。

自民党教育再生実行本部の「提言」が4月8日。
私たちは、直後からすぐに多様なメディアで反論活動を開始しました。

こうして4人の座談会(4月28日)を開き、それを活字化し、かつ1人1本の論文を執筆しました。

その原稿が脱稿したあとの5月28日に、今度は政府の教育再生実行会議「第三次提言」が出されました。
これは自民党の「提言」に修正が加えられ、新たな方針も追加されています。

両者を整理すると以下の通りです。

4月8日の自民党教育再生実行本部の英語教育方針は以下の通りです。

① 大学受験資格及び卒業要件としてTOEFL等の一定以上の成績を求める。
② 世界レベルの教育・研究を担う30程度の大学の卒業要件はTOEFL iBT 90点相当とする。
③ 高校ではTOEFL iBT 45点(英検2級)等以上を全員が達成する。
④ 英語教師の採用条件はTOEFL iBT 80点(英検準1級)程度以上とする。
⑤ 求められる英語力を達成した教師の割合を都道府県ごとに公表する。

英語教育学をまともに勉強している者であれば、血が沸騰するほど許しがたい方針であると思うでしょう。(何も感じない人もいるみたいですが・・・)

トップエリートの育成に特化して多数を切り捨て、学習指導要領との二重基準によって学校教育を破壊し、英語嫌い、格差、荒れを助長する危険な政策だと考えられるからです。

なので、私は5月1日の朝日新聞紙上で教育再生実行本部長の遠藤利明衆議院議員(元文部科学副大臣)と論争しました。
また、大津由紀雄さん、鳥飼玖美子さん、内田樹さんなどの様々な識者が反論を寄せ、新聞の投書欄などでも批判が相次ぎました(一部には賛成論もありました)。

正直なところ、私はこの「自民党提言」が、ほぼそのまま政府の教育再生実行会議の方針に反映されるのではないかと懸念していました。

しかし、マスコミが大きく取り上げたこともあり、私たちの反論は一定程度は自民党提言を押し戻したのではないかと思います。

というのは、5月28日に安倍首相に手渡された教育再生実行会議の「これからの大学教育等の在り方について(第三次提言)」(以下、政府提言)では、自民党提言の5つの提言のうちの以下の3つが消えていたからです。

×② 世界レベルの教育・研究を担う30程度の大学の卒業要件はTOEFL iBT 90点相当とする。
×③ 高校ではTOEFL iBT 45点(英検2級)等以上を全員が達成する。
×⑤ 求められる英語力を達成した教師の割合を都道府県ごとに公表する。

もちろん、今後も油断することなく、この3つについても反論を続けていく必要がありますが、やはり声を上げ、おかしいことはおかしいと言い続けるべきだと実感しました。

しかし、新たな問題が浮上しました。
政府提言では、2つの危険な方針が追加されたのです。

⑥ 小学校の英語学習の抜本的拡充(実施学年の早期化、指導時間増、教科化、専任教員配置等)
⑦ 中学校における英語による英語授業の実施

本当に困った人たちです。

⑥については、小学校外国語活動が必修化されたのは、2011年度からです。
その成果はほとんどまったく検証されていません。

むしろ、私の知る限りでは、事実上の教材である文科省の Hi, friends! が倉庫で眠ったままだったり、ALT(外国人指導助手)に丸投げだったりと、外国語活動が小学校教育の中で存在感を増している実態はほとんどありません。
(私はこの6月に某小学校を訪問するのですが、外国語活動は「お見せするものがない」と言われています。)

むしろ、先生方は指導に苦しみ、中学校入学段階で英語学習への興味を失っている子が過半数に達しています。

そうした外国語活動の成果と課題の検証もしないまま、小学校英語(本来は「外国語」でしょう!)を教科にし、時間数を増やし、4年生以下に下げるというのです。

戦果の検証もなく、主観的な思い込みで戦線を拡大した旧軍部のようです。

⑦「中学校における英語による英語授業の実施」は、もっとひどい方針です。

高等学校で「授業は英語で行うことを基本とする」とした新学習指導要領が実施されたのは、この4月から、しかも1年生だけです。

もとより、「英語で授業」の成果が確認できるはずもありません。
むしろ、マスコミが報じているように、現場では試行錯誤ないし混乱状態のようです。
学問的にも、まったく根拠のない方針なのですから。

ここでもまた、検証もなく(私自身は必ず失敗すると思っていますが)、中学校にまで「授業は英語で」を降ろそうとしています。

もちろん、生徒が一段と外国語に興味を抱き、学力が向上するために授業改革は必要です。
しかし、それは「英語で授業」ではありません。
(私自身は、協同学習による授業改革を提案し、本日も6月20日にお邪魔する大阪の公立中学校の先生方と改革方針の意見交換をしました。)

さらに言えば、過去20年間の会話中心の「コミュニケーション重視」路線の総括と検証が必要です。

斉田智里先生の博士論文(2010)が実証したように、高校入学時点での英語学力は1995年から14年連続で低下を続け、その下落幅は偏差値換算で実に7.4にも達しているからです。

英文法が軽視され、英語の仕組みがわからなくなり、「書くこと」の成績が著しく下がりました。

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これが「改革」の結果なのです。

自民党提言」および「政府提言」が実施されれば、日本の英語教育は文字通り「差し迫る破綻」といった状況になってしまうのではないでしょうか。

だから、がんばりましょう!