2013年は英語教育改革論議で大揺れの1年でした。
こうした無謀な方針は日本の学校英語教育を破綻させかねない。
そうした強い危機感から、私たち4人(大津由紀雄・江利川春雄・斎藤兆史・鳥飼玖美子)は、各種のメディアやシンポジウム等で反対の論陣を張り、6月末に『英語教育、迫り来る破綻』(ひつじ書房)を緊急出版しました。
そうした強い危機感から、私たち4人(大津由紀雄・江利川春雄・斎藤兆史・鳥飼玖美子)は、各種のメディアやシンポジウム等で反対の論陣を張り、6月末に『英語教育、迫り来る破綻』(ひつじ書房)を緊急出版しました。
しかし、その後も以下のような英語教育に関する政策が打ち出されました。
そのため、私たちは先の『英語教育、迫り来る破綻』に次ぐ第2弾『学校英語教育は何のためにあるのか』(仮題)で、こうした政策の問題点について徹底的に議論しようと、いま準備を進めています。
その刊行は来年度早々(4月以降)になる予定ですが、その前に、どうしても言っておきたいことがあります。
ひとつだけに絞れば、「英語力の無責任な目標設定はやめてほしい」ということです。
しかし、中学・高校の外国語教育の目的は、実用英語技能や海外留学だけをめざしたものではありませんから、英検やTOEFLを「成果指標」として掲げ、これらの試験によって生徒と教師の能力を数値目標で管理することは根本的な誤りです。
百歩譲って、便宜上そうしたスコアの提示が目安として必要だとしても、そこには正当な根拠と一貫性がなくてはなりません。
にもかかわらず、高校卒業段階の到達目標を例にとれば、たった10カ月ほどの間に目標設定が3回も変わっているのです。
(1)自民党の教育再生実行本部が2013年4月8日に発表した「成長戦略に資するグローバル人材育成部会提言」で示された目標は、「高等学校段階において、TOEFL iBT 45点(英検2級)等以上を全員が達成する」というものでした。
(2)2カ月後に閣議決定された「第2期教育振興基本計画」では、「英検準2級程度~2級程度以上」、達成率も「50%」に引き下げられたのです。
(3)現実をふまえて下がったのかと思ったら、文部科学省が12月13日に発表した「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」では、目標をなんと「高校卒業段階で英検2級~準1級、TOEFL iBT 57点程度以上」に引き上げました。
なぜ閣議決定で「英検準2級程度~2級程度以上」とされた指標が、たった半年で「英検2級~準1級」に変えられてしまうのでしょうか。
仮に小学校の外国語活動を現在の5年生から3年生に引き下げたとしても、到達目標を「英検2級」から「準1級」に引き上げるほど劇的に英語力が伸びるはずはありません。
担当者がどこまで理解しているのか疑問ですが、英検2級の語彙範囲は5,100語程度で合格ラインは約6割。
ところが、準1級となると語彙範囲は7,000~8,000語以上に達し、合格ラインも約7割に上がるので、大学の英語専攻生でも合格が難しい試験です。
ところが、準1級となると語彙範囲は7,000~8,000語以上に達し、合格ラインも約7割に上がるので、大学の英語専攻生でも合格が難しい試験です。
ですから政府は英検準1級を「英語教員に求められる英語力の目標」としたのです。
その英語教師と同じ到達目標を高校生に設定するというのは、まさに支離滅裂です。
その英語教師と同じ到達目標を高校生に設定するというのは、まさに支離滅裂です。
生徒の身になって考えてください。
到達目標というのは、学習者や教師にとってはきわめて重大な問題です。
到達目標というのは、学習者や教師にとってはきわめて重大な問題です。
明確な根拠も示さずに、「実施計画」を作文した官僚の思いつきでコロコロ変えていいはずがありません。
なお、橋下徹市長・中原徹教育長が率いる大阪市の教育振興基本計画(2013-15年度)が掲げている目標は、中学校重点校の修了段階で「英検2級・準1級程度、TOEFL等の受験に対応できる英語力を育成する」ですから、目が点になります。
高すぎるノルマを課して社員を追い詰める「ブラック企業」さながらの発想ではないでしょうか。