希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

中学校でも「英語で授業」!?

政府の「教育再生実行会議」(座長・鎌田薫早大総長)が、5月22日、グローバル化への対応や大学改革などについての第三次提言素案をまとめたことについては、5月23日のブログで紹介しました。

その「提言素案」の内容は「実行会議」のサイトの5月22日の「配付資料」からわかります。


この中で特に見過ごせないのは、4ページの「③初等中等教育段階からグローバル化に対応した教育を充実する」の以下の部分です。

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○ 国は、小学校の英語学習の抜本的拡充(実施学年の早期化、指導時間増、教科化、専任教員配置等)や中学校における英語による英語授業の実施、初等中等教育を通じた系統的な英語教育について、学習指導要領の改訂も視野に入れ、諸外国の英語教育の事例も参考にしながら検討する。国、地方公共団体は、少人数での英語指導体制の整備、JETプログラムの拡充等によるネイティブ・スピーカーの配置拡大、イングリッシュキャンプなどの英語に触れる機会の充実を図る。

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マスコミは、おもに小学校英語の教科化についてのみ報道しています。

しかし、さらに見過ごしてならないのは、「中学校における英語による英語授業の実施」の部分です。

ご承知のように、本年度から学年進行で実施され始めた高校の新学習指導要領では、「授業は英語で行うことを基本とする」と定められました。

この方針が学問的にも実践的にも誤りであること、中教審の外国語専門部会の議論も経ずに強行されたことについて、私は繰り返し述べてきました。

5月24日のNHKテレビが報じていたように(実は、私もこの番組作りの相談を受けていたのですが)、この4月から高校では「授業は英語で」が実施され、生徒から「先生が何を言っているのかわからない!」といった悲鳴が寄せられています。当然です。

こうした高校での検証も経ないまま、今度は「中学校における英語による英語授業の実施」が政府方針に盛り込まれようとしているのです。

英語をシャワーのように浴びれば英語が上達する、というのはまったくの幻想です。

そもそも中学校の英語の時間は週4コマ=200分=3時間20分しかありません。

しかも、日本語と英語とでは、音声も文法も大きく異なり、日常生活で必要としないので、英語の仕組みを日本語と対比しながら教えることが大切です。

現時点でも英語嫌いが増え、中学生にもっとも人気のない教科が国語と並んで英語です。

中学生がもっともわからないと回答しているのが「英文法」で、78.6%にも達しています。

英文の構造もわからないまま、会話のまねごとを繰り返すだけでは、「英語がわからない」、「嫌い」、だから「やる気がしない」という声が増えるのも当然です。

2010年のベネッセの調査では、中学教師の実に73.2%が、生徒の学習意欲が低いことに悩んでいます(朝日新聞2013年3月24日「教育」欄)。

これが、「グローバル化日本」の現実です。

そうした中学生に授業を英語で行えば、何が起こるかは自明でしょう。

超国家企業の利害だけで、一国の教育政策を立てるべきではありません。

現実の子どもたちのリアルな姿と、先生たちの苦闘の現実をふまえて、その支援のためにこそ教育政策を立てるべきです。

そもそも、英語の専門家が一人もいない政府の「教育再生実行会議」や自民党の「教育再生実行本部」が、シロウト考えで英語教育政策を論じるべきではありません。

「大学入試にTOEFL」などという方針を提起した自民党教育再生実行本部の遠藤利明議員は、朝日新聞の私との論争の中で、TOEFLを受けたこともない上に、「受けても10点くらいでしょう」と述べています。

これで英語教育政策を論じる資格があるでしょうか。

彼らの提案が、「政策」と呼べるでしょうか。