希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

6.29獨協大学4人組講演会【速報】

2014年6月29日(日)、埼玉県の獨協大学天野貞祐記念館大講堂において、獨協大学創立50周年記念外国語教育研究所第4回公開研究会「日本における英語教育の現状と課題」が行われました。

その概要について、同大学外国語教育研究所主任研究員の岡田圭子先生が、たいへん見事にまとめて下さいました。ご紹介します。

なお、本ブログの写真は、冒頭の会場全体像については主催者による撮影ですが、それ以外は「ひつじ書房」編集部の撮影によるものです。

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当日は梅雨の合間の不安定な天気でしたが、関東近県はもとより、北海道、九州、広島、兵庫、福井、名古屋、岐阜など全国各地から、英語教育に関心を持つ方々が集まりました。

定員500名の大講堂に収容しきれず、あらかじめ用意していたA-207教室をサテライト教室として開放し、大講堂からの映像を配信しました。

最終的に、大講堂とサテライト教室合計で約700名の参加となり、外国語教育研究所の行事としては過去最大の来場者数を記録しました。

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研究会は2部に分かれ、第1部では、江利川春雄和歌山大学教授、斎藤兆史東京大学大学院教授、大津由紀雄明海大学副学長・教授、そして鳥飼玖美子立教大学特任教授が20分ずつの持ち時間で、現在の日本における教育行政、英語教育のありかたについて、「英語教育の目的」をキーワードとして講演しました。

江利川教授は、「学校の外国語教育は何を目指すべきなのか」というタイトルで講演しました。

昨今話題となっている政府の「グローバル人材育成」をはじめとする英語教育政策は、生徒・学生の約1割を指すに過ぎず、全員に責任を負う公教育とはなじまないと述べました。

また、世界と戦える人材の育成を呼びかける政府の成長戦略を批判し、競争と格差では子どもは育たないとし、学理と検証に基づいた政策が必要だと述べました。

さらに、学校の場では全員を伸ばす協同的な学習への取り組みを呼びかけました。
また、教育投資の少なさを指摘し、OECD並みの教育予算の必要性を強調しました。

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続いて演壇に立った斎藤教授は、「英語学習・教育の目的」と題して講演しました。

昨今話題となっている「英語で英語の授業を行うこと」について、「ピアノを弾けない人が100人集まって教えても、1人の子供もピアノを弾けるようにならないが、優秀なピアノ教師が1人いれば、100人の子供がピアノの弾き方を覚えるだろう」というたとえ話を用いて、特定の授業の仕方にとらわれずに生徒の状況を見ながら臨機応変に対応できる優秀な英語教員を増やしていくことの重要さを訴えました。

そして、中等教育における英語教育の目的は、のちに必要となる英語力の基礎を授けることだと述べました。

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3番目に登壇した大津教授は、「母語と切り離された外国語教育は失敗する」というタイトルで講演しました。

大津教授は、母語である日本語も、また外国語もきちんと使えない人が増えているという現状認識に基づき、「ことばへの気づき」が外国語教育にとって最も重要なことであり、外国語(たとえば英語)を学ぶことにより母語への気づきが生まれ、言語を使っての整理された思考が可能になり、思考の外部化、文化の伝播・伝承につながると述べました。

学校英語教育の目的は、母語に対する気づきを促進し、母語をきちんと運用できる力をつけることであるから、仕事で英語を使う人が少ないとしても学校の英語教育は必要だと述べました。

そして現在の教育行政に「ことば」という観点が欠落していることを指摘しました。

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最後に登壇した鳥飼教授は、「なんで英語の勉強すんの?」という刺激的なタイトルで講演しました。

ある中学校で行った意識調査に基づき、英語を勉強する目的を見失った中学生が多いことを指摘しました。

そして1950年代から続くいくつかの英語教育論争を紹介した上で、外国語学習の目的とは、多文化共生であると指摘しました。

すなわち、コミュニケーション能力(他者との関係を構築する)、異文化能力(異質な他者と対峙した時どうするか)などの力をつけ、異質な文化と世界観に対し開かれた心を養うものだと述べました。

最後に「外国語は異文化をのぞく窓」であり、「外国語を学ぶことで自分の言語と文化がわかる」と述べて、4名の講演を締めくくりました。

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休憩時間中に来場者からの質問用紙が回収されましたが、4名の先生に100件近くの質問が寄せられました。

第2部は、これらの質問から講演者の先生方にいくつかを選んでいただき、お答え頂きながらディスカッションして頂きました。

「なぜ英語で授業なのか、政府ではどんな議論があったのか」「大学入試はどう変わったのか」「国際共通語としての英語の発音とは?」「フィリピンや韓国での英語教育の実情はどうなのか」「英語教員の育成についてどう考えるか」「小学校の現場ではすでに切羽詰まった状況だが、どうしたらよいか」などの質問を取り上げ、先生方は丁寧に的確に答えていました。

短いディスカッションでしたが、これからも、生徒たちが生き生きと学べる外国語教育のために皆で力を合わせて行こうという先生方の熱意が来場者にも伝わり、大きな拍手のうちに閉会となりました。
A-207のサテライト会場でも大きな拍手が沸き起こりました。

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引き続き3階のラウンジで行われたレセプションにも非常に多くの参加者がありました。

参加者たちは、現在の日本の英語教育に対する最先端の論客と言葉を交わそうと講演者を囲み、熱心に議論していました。

4人の先生方の共著最新刊も会場で販売され、多くの人が買い求めていました。

担当部署スタッフ、学生スタッフの連携もスムーズで、充実感に溢れた1日となりました。


岡田圭子先生、たいへん見事な司会進行と、研究会の概要報告をありがとうございました。

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舞台裏を紹介します。

4人の新著『学校英語教育は何のため?』ひつじ書房)に、せっせと4人のサインを書いていたのです。

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「手が痛いよお~」

「文句言わないの。全国から来てくださるんだから」

「は~い。がんばりま~す」

いやもう、サークルのノリでしたね。(^_^;)

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レセプションでは、次から次にお話に来られます。

なので、4人とも何も食べていませんでした。

お腹がペコペコなので、ひつじ書房の編集スタッフと上野公園内の某所へ。

そこでも、次の本の企画会議。
斎藤兆史さんなんか、レジュメまで配って・・・(やはり東大教授はちがう!)

で、とんとん拍子に次なる「作戦」が決まったのでした。
(ほんとは、早く食べたかったから)

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かくして、全国のみなさんに励まされ、4人組は頑張ります。