希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

英作文参考書の歴史(8)小野圭次郎『英語の作文』(その1)

昭和受験史の伝説「小野圭シリーズ」の英作文(1)

○ 小野圭次郎『最新研究 英語の作文 学び方と考へ方』山海堂出版部、1928(昭和3)年5月23日発行。1938(昭和3)年9月2日の11版から訂正版。全454頁。
       
       写真は1937(昭和12)年4月8日発行の訂正121版。

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小野圭次郎の経歴と彼の英文解釈書については5回にわたって連載したので、それらの過去ログを参照されたい。

巻頭に「英訳教育勅語」と「英語参考叢書完成に就いて」が掲げられているのは、この時期の小野圭「英文解釈」と同じだ。

全体の構成は以下の通り。

第一編 英作文の学び方と良成績の取り方 1-11頁
第二編 英作文の考へ方 17-422頁
第三編 暗誦文と和英要語小字彙兼索引 423-454頁

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ここでも、小野圭らしい「学び方」「考へ方」「良成績の取り方」といった、生徒(とりわけ苦手意識を持つ生徒)の気持ちに寄り添った記述を行っている。
まさに、噛んで含めるような書き方で、いわゆる「小野主義」が貫かれている。

第一章の「英作文の学び方」では、「1. 英語読本の作文的利用」や「2. 模範文の暗記」など、きわめて具体的で現実的な提案を行っている。
「11. 原文拘泥病」などのキャッチコピーにも彼の才能が表れている。
「これは原文の一言一句をも抜かさず盡(ことごと)く訳文に表はさうとする病気である。」

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「試験官の要求する英作文の答案」では、実際の入試採点官の講評を載せ、11の答案例のレベルを上の部、中の部、下の部に分けて提示し、どこが問題かを述べている。
当時は入試の採点に当たった試験官の講評が公表されていたから、それをもとに本書でも「試験官の講評」がしばしば登場している。

受験生にとっては、試験官から直接ツボを指南してもらえるわけで、ありがたかったことだろう。

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本書の中心をなす第二編「英作文の考へ方」では、「構文」「単語熟語の知識」など19項目に分けて詳述している。

「英作文に於ては構文第一主義を守るべきである」として、本書では基礎的な構文52種を掲げ、その文頭に〔諳〕の字を記して、必ず諳誦するよう指示している。

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なお、例題は合計1,390あり、コンパクトな体裁の割には豊富な例題数を誇っている。しかも、ほとんどが入試問題である。

英作文で重要な「日英構文の相違」などは、基礎的なことから懇切丁寧に説明されている。英作文の練習は日本語を見つめ直す重要な契機なる。
そのことを自覚させる指導ぶりが光る。

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巻末の第三編「暗誦文と和英要語小字彙兼索引」では、まず第二編に収めた諳誦用の52例文が一括して掲載されている。
それぞれの例文には本文の例題番号が付けられており、適宜参照できるようになっている。

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続いて、24頁に及ぶ「和英要語小字彙兼索引」が付けられている。
特に注意すべき語句は太字で示してあり、それぞれに本文の例題番号が付いている。
しかも、本文に解説が載せられている場合には例題番号がイタリック体になっている。
実にきめ細かい配慮だ。

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こうして、小野圭「英文解釈」の姉妹編である本書は、受験生の圧倒的な支持を受けた。
敗戦の翌年の1946(昭和21)年12月に出た戦後版(訂正229版)の「終戦後の再刊行に就いて」によれば、小野圭の「英作文」は戦前に228版(約23万部)を数えている。
上級学校の数が少なかった当時としては驚異的な数字であろう。

本書は、戦後に絶版となった山崎貞の『新々和文英訳研究』(1925)とは異なり、戦後も改訂されてたくましく復活していく。

次回はそうした戦後版を見てみよう。