希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

英作文参考書の歴史(11)松川昇太郎『実力完成 受験英作文法』(1949)

英作文+英文法のユニークな「英作文法」参考書

○ 松川昇太郎『実力完成 受験英作文法』清水書院、1949(昭和24)年10月15日発行。
扉・奥付の表記は「大学受験 英作文法」。4+4+225頁。

         写真は1950(昭和25)年6月20日の第10版

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松川昇太郎(1904-1976)は東京浅草生まれで、苦学して東京高等師範学校の臨時教員養成所を卒業。1931(昭和6)年には超難関の文部省高等教員検定試験英語科に合格している。
神奈川県立湘南中学校(現・県立湘南高校)在任中には、同僚の蟹江忠彦、加藤寿雄らとともにパーマーのオーラルメソッドを指導の中心に据え、クラスの二分割による少人数授業を取り入れた「湘南プラン」で名を馳せた。同校は1939(昭和14)年に第一回岡倉英語教育賞を受賞している。
「湘南プラン」については庭野吉弘『日本英学史叙説』(研究社、2008)の第4章に詳しい。
本書にも湘南高校教諭の武藤孝男が協力している。

本書の最大の特徴は、タイトルにもあるように、「英作文法」(えいさくぶんぽう)を明確に打ち出したことである。
松川は次のように述べている。

「本書の書名に用いた英作文法という言葉は、従来の和文英訳を主とした所謂(いわゆる)英作文と、英文法の両方を整理、融合して、英語による発表力を養うこと、主として英語作る法の意味に用いたものである。(中略)自分の思っていることや又表現する必要のあることを平明、正確な英語で仲々と表現する能力は今後益々その必要を増す。」(強調は松川)

松川の言う「発表力」は「理解力」に対応するパーマーの重要概念であり、パーマーのオーラル・メソッドに傾倒した松川らしい。
後半では、今日で言う「自己表現」や「プレゼンテーション能力」の重要性を指摘しており、先駆的である。

なお、文法と作文とを結合した英語教科書は戦前からあり、「グラコン」として親しまれた。

全体の構成は「全編 文法と表現法の研究」「後編 主題別表現の研究」とに別れている。いわば、基礎編と応用編である。

目次は以下の通り。

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このように、文法や構文別に章立てされており、和文英訳以外に、しばしば〔文法問題〕が挿入されている。
これは「正しい語法、構文、慣用を学び、自然に英文の正否に対する判断力をも養わせる(中略)英語の運用能力と鑑識力を増進」させるためである。

いわば、しっかりした文法的な理解によってaccuracyを高め、豊富なドリルでfluencyをも高めることを意図したものである。
上の目次の右頁に続く、本文の展開を見てみよう。

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「後編 主題別表現の研究」は対訳方式で、読むと時代の雰囲気が伝わってきて実に面白い。
前回にも述べたが、敗戦直後の教科書や参考書には、しばしば民主主義を教える内容が盛り込まれている。

「吾々は民主・平和・文化日本を建設せねばならない。」
「吾人は恒久的な世界平和を確立せねばならぬ。」
などの主張を直接若者たちに訴えているのである。

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こうした主題(テーマ)別を徹底した英作文参考書として、翌年には須藤兼吉『英作文新講』(1950)が出る。

次回は、この参考書を取り上げよう。