希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

経済優先と子どもの危機

本日9月2日の『朝日新聞』に掲載された「子ども権利 守れてる?」には深く考えさせられた。

国連子どもの権利委員会の日本担当委員でドイツの教育学者であるロタール・クラップマン氏の意見が紹介されていた。

同委員会から、日本は今回も40項目以上の是正勧告を受けてしまった。

クラップマン氏は、日本の「競争主義的教育」が「勉強のできる子とそうでない子を、分けようとしている」として格差化を憂慮している。

また、「経済を優先し、学校が子どもの可能性を発達させる場にならず、経済的視点で子どもの能力をみている。結果的に親子関係に大きなひずみを生み出している」と言う。

規制緩和という弱肉強食主義によって、親は深夜まで働かされ、子どもと会話する時間すらない(教員も同じだ)。
そのツケが、子どもに、そして学校にまわされる。

子どもたちは「人材」と見なされ、大企業の論理で選別されていく。
その典型が「英語が使える日本人」の大号令だろう。

奇しくも、同じ『朝日新聞』には「いいのか 学校英語」の完結編として、「TOEICの伝道師」と呼ばれる千田潤一氏の主張が載っていた。実業界から英語教育業界(企業英語研修)に入った人物である。

吐き気を催す発言だったが、国連子どもの権利委員会が懸念している典型的な《大企業の論理による英語教育論》なので、記事の一部を引用させていただく。

「英語ができなくても飯が食える唯一の英語関係の仕事が中学高校の英語教員って、おかしくないですか。」

「先生が英語力向上をやらざるをえないようにしてあげたらどうでしょう。例えば、教員免許更新の条件を中学はTOEIC730点、高校は860点のように。」

「新入社員の英語力が低いのは、中学高校の先生によるところが大きい。でも、本当の『黒幕』は大学入試問題を作る大学の英語の先生です。なぜ実需とかけ離れた問題を作るのか。お願いですから、大学の先生は入試で英語教育の邪魔をしないでほしい。入試はTOEICなどの外部テストを使ったらいいんです。これ一発で大きく変わります。」

「大学は企業の下請けじゃない?いえ、出口を見てください。大学卒業生の大半が企業に入ります。大学は立派な下請けになってください。」

以上、再度の吐き気に襲われながらも、忠実に引用した。

学校教育と企業内研修の区別も付かなくなった人間が、言いたい放題のことを言う。
大新聞が、それをそのまま全国面に載せる。

英語教育をめぐる病根の根深さは、かくの如しである。

これでは、「経済を優先し、学校が子どもの可能性を発達させる場にならず、経済的視点で子どもの能力をみている」とする国連子どもの権利委員会の懸念も是正勧告の内容も、当分は改善されそうもない。

国連子どもの権利委員会による日本から提出された報告の審査(最終見解)は外務省のサイトで全文(日本語訳)が読める。ただし「児童の権利条約」と意図的に誤訳している。


勧告を受け入れ、子どもの権利を守るよう、日本政府に働きかけましょう!