(4月17日追記:この「提言」に関して、自民党の教育再生実行本部の本部長である遠藤利明氏が次のように発言していますので、参考にしてください。論理も日本語もすごいですよ。)
http://d.hatena.ne.jp/gorotaku/20130404/1365066300
http://d.hatena.ne.jp/gorotaku/20130404/1365066300
批判どころか、提言を称揚し、6年間学んでも英語が話せないのは先生が話せないからで、「まず先生から始めよう」と教師バッシングを煽るかのような内容だったからです。
「提言」にしても、朝日の社説にしても、TOEFLや学校英語教育の基本に対する無知・無理解にあふれています。
英語教育学を専攻し、英語教員の養成に携わっている立場から座視できないので、この場で取り急ぎ反論したと思います。
ただし、「提言」の全文はまだ一般公開されていないようなので、現時点では各種の報道を情報源とした反論であることをお許しください。
報道によれば、この「提言」には以下の方針が盛り込まれています。
・すべての国公立大学の入試や卒業にあたり、英語テスト「TOEFL(トーフル)」での一定の成績を要件にする。
http://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000003330.html
http://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000003330.html
・世界レベルの教育を担う大学を30程度指定し、卒業要件にTOEFL iBT90点以上とする。
要するに、TOEFL等を受験させ、一定のスコアを高校の卒業要件や大学入試に求めるというものです。
そもそも、TOEFL (Test of English as a Foreign Language) はアメリカなどの大学・大学院への留学という目的に特化した特殊な試験ですので、一般の高校生の英語学力を測ること自体に無理があります。
しかし、ここでは話をわかり易くするために、「語彙」(新出単語数)に絞って反論します。
高校卒業時の総語彙数は2012年度までは2,200語、2013年度からの新課程で3,000語です(ただし完成年度は2015年度)。
ところが、TOEFLの語彙は超難解です。
私が『英語教育のポリティクス』(2009)の87頁で紹介したように、異語を1,000語単位で難易度別に分類すると、10,000語レベル以上の難解語の割合は、TOEICと英検準1級では約4%ですが、TOEFLでは約14%にも達します。
(原資料:石田雅近「英語教員が備えておくべき英語力:英検準一級、TOEFL550点、TOEIC730点の目標値を中心に」『英語展望』第111号、2004、英語教育協議会、13頁)
私が『英語教育のポリティクス』(2009)の87頁で紹介したように、異語を1,000語単位で難易度別に分類すると、10,000語レベル以上の難解語の割合は、TOEICと英検準1級では約4%ですが、TOEFLでは約14%にも達します。
(原資料:石田雅近「英語教員が備えておくべき英語力:英検準一級、TOEFL550点、TOEIC730点の目標値を中心に」『英語展望』第111号、2004、英語教育協議会、13頁)
ですから、教育再生実行本部の提言を単純に言い換えれば、「大学入試を英検1級レベルの試験問題にする」ということです。
現在の大学入試センター試験の英語問題は学習指導要領に準拠して作成されていますが、これすら大半の高校生には難しすぎて、もっと易しい試験を新設しようという検討がなされているのが現状なのにです。
提言は、「高校修了要件をTOEFL iBT45点(英検2級)等以上」を求めるとしています。
英検2級レベルの学力を英検1級並みのTOEFLで測るという発想は、小学校6年生の学力を高校入試問題で測定するようなものです。
学校での評価やテスト作成のイロハは、(1)真面目に学んだ範囲から出題される、(2)できる生徒も苦手な生徒も等しく成績が測定される、というものですが、このイロハが完全に無視されています。
(ただし、極めて優秀な生徒・学生の英語力をTOEFLで測るということ自体は否定しません。)
(ただし、極めて優秀な生徒・学生の英語力をTOEFLで測るということ自体は否定しません。)
もちろん、TOEFLは熟達度(proficiency)の測定が目的なので、期末テストのように「真面目に学んだ範囲から出題される」試験ではありません。
ですが、「高校の修了要件」にするというのであれば、高校時代に学習指導要領に従って作られた教科書などで真面目に学んだ生徒たちの到達点を測れる試験を実施すべきです。
ちなみに、英検準2級以上のレベルに達した高校生は2006年で約10%、同等以上と広く解釈する文科省データも約18%にすぎません(2007年)。
http://benesse.jp/berd/data/dataclip/clip0014/
http://benesse.jp/berd/data/dataclip/clip0014/
この英検準2級というのは3,600語レベルです。
このレベルに達した高校生ですら、現状では3割以下にすぎないのです。
このレベルに達した高校生ですら、現状では3割以下にすぎないのです。
そうした高校生一般の卒業資格を、1万語をはるかに超すTOEFLで判定しようというのです。
実際に実施すれば、大半の生徒が5~20%程度の低い得点圏に固まるでしょう。
これでは、英語力の計測が困難ですし、最終的に「2~3割の得点で高校を卒業した」という苦い思いを懐いて高校を後にすることになるでしょう。
これでは、英語力の計測が困難ですし、最終的に「2~3割の得点で高校を卒業した」という苦い思いを懐いて高校を後にすることになるでしょう。
この「提言」が実施されれば、ごく数パーセントの英語のできる子だけは優遇されるかもしれませんが、95パーセント以上の子どもたちの外国語を学ぶ権利が破壊されるのではないでしょうか。
現在でも、「英語が苦手」とする生徒は62%で、「好き」と答えた中学生の割合は9科目のうちで国語とともに最下位レベル(26%)です(ベネッセ「中学校英語に関する基本調査」2009)。
「英語の授業が分からない」と回答する中学3年生は約3割に達しています。
「英語の授業が分からない」と回答する中学3年生は約3割に達しています。
さらに、目標達成率の公開が義務づけられるでしょうから、学校の選別とリストラ、英語教師への強制研修とバッシングが加速するでしょう。
他方で、これほど無知で無謀な方針ですから、具体的に批判を加えれば、自民党内からや文科省内からの批判を噴出させることは難しくないでしょう。「提言」に対しては、すでに党内で異論も出ています。
http://prideofjapan.blog10.fc2.com/blog-entry-4752.html
http://prideofjapan.blog10.fc2.com/blog-entry-4752.html
学校教育にTOEFLをという方針は、もちろん英語教育の専門家ではなく、楽天の三木谷浩史社長兼会長が言いだしたようです。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130221/stt13022122450008-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130221/stt13022122450008-n1.htm
英語教育の素人が、教育課程や学校教育に対するリアルな認識を欠き、思い込みと妄想で方針を立てる。
それに与党議員が飛びつき、国家権力で学校現場に強制し、大手マスコミが加担する。
(やがて御用学者が追認する。)
それに与党議員が飛びつき、国家権力で学校現場に強制し、大手マスコミが加担する。
(やがて御用学者が追認する。)
原子力ムラと同じ構造です。
その犠牲は、またも教員と子どもたちです。
グローバル企業などでの仕事で英語を必要とする人は、せいぜい1割です。
しかし、学校教育は100%の子どもの学びを保障しなければなりません。
しかし、学校教育は100%の子どもの学びを保障しなければなりません。
そのために、英語の先生たちは、約7割が過労死線上という過酷な超過勤務をこなしながら奮闘しています。
政府は、そうした教育条件を改善し、学校教育の原点に立った教育政策を進める義務があります。
(拡散してください。)
*2013年4月13日15:34投稿、同日22:30一部修正。