希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

毎日新聞社「授業はすべて英語で」の誤報に訂正記事

毎日新聞が昨年12月4日付夕刊で「授業はすべて英語で行うこと」という誤報記事を全国版に掲載したことは既に述べました。

この問題につき、本日、毎日新聞東京本社社会部より、1月26日付夕刊紙面で訂正を掲載するとの回答がありました。

以下に回答を掲載します。

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江利川春雄様

ご愛読ありがとうございます。「12月4日夕刊の誤報『授業はすべて英語で』への対応について」とのメールをいただきました。遅くなりましたが、ご指摘いただきました内容を検討した結果、誤った内容について26日付夕刊紙面で訂正を掲載させていただきます。
 これからも英語教育の難しさを問題提起の形で記事にしたいと考えております。いただきましたご指摘やご批判を真摯に受け止め、正確で分かりやすい表現を心がけてまいります。ありがとうございました。
               毎日新聞東京本社社会部

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真摯な対応として、評価できると思います。

<追記> Web版では以下のような訂正が出ています。

<訂正> 12月4日夕刊「英語だけの会話授業OC 高校の実施率2割足らず」の記事で、2013年度からオーラルコミュニケーション(OC)の授業中の会話が英語だけに限定されると書いた部分は、授業は英語で行うことを基本とするの誤りでした。「英語限定授業」との表現は正しくなく、OCという名称も変更されます。
http://mainichi.jp/life/edu/news/20110126org00m100001000c.html

この回答に対して、私は以下の返信をしました。

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毎日新聞東京本社社会部様

和歌山大学の江利川春雄と申します。
このたびは、たいへん不躾な申し出にも拘わらず、12月4日付の記事の表現につきまして訂正記事を掲載されるとのことで、その真摯な対応に敬服いたしました。

すでに申し上げましたとおり、高校学習指導要領では、「授業は(すべて)英語で行う」ととられても仕方がないような曖昧な表現が一部でとられておるため、マスコミ関係者を含めて、世間には誤解が多いようです。

文科省は「学習指導要領解説」で「日本語を交えて授業を行うことも考えられる」と事実上の軌道修正をしましたが、この指導要領解説を読む人は英語教育関係者だけでしょう。

したがって、単純に担当記者および毎日新聞社だけの責任に帰すことはできません。

そもそも、今回の学習指導要領の骨格を審議した中央教育審議会の外国語専門部会では、「授業は英語で行うことを基本とする」などという方針を決めておりません。
この点は複数の委員から直接うかがいましたし、少なくとも公開されている議事録にはまったく記されておりません。

にもかかわらず、専門部会委員にも知らされず、文科省教科調査官(当時)などの独断で学習指導要領に明記されてしまいました。

ことは指導法に関することであり、本来は教員の裁量に任される問題です。
「英語で授業」がむやみに強行されれば、とりわけ英語が苦手な生徒を追い詰め、学びの機会を奪うことにもつながりかねない重大な問題を含んでいます。
教員と生徒との人間的な意思疎通と良好な人間関係を破壊する危険もあるでしょう。
学問的にも、授業を英語で行えば成績が向上するといった仮説は実証されていません。

こうした事情のため、この度の12月4日の記事に関しましても、訂正をお願いした次第です。
御了解ください。

この「授業は英語で」の問題点については、英語教育学的な観点から、今度とも研究と批判を続けて参る所存です。もしこの点で貴紙に協力できることがありましたら、何なりとご一報ください。

以上、取り急ぎお礼を申し上げます。

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ということで、皆さんのご支援により、毎日新聞社誤報を認め、訂正記事を出すということで、ひとまず一段落とさせていただきます。

ただし、これはあくまで「一段落」です。
高校の英語の授業は「すべて英語で行う」と誤解されかねない方針を勝手に盛り込んだことへの追及と、今後も予想される「すべて英語で行え」という暴力的な圧力に対しては引き続き警戒と闘いが必要です。

そのためにも、皆さんの頑張りによって、今度の問題で新聞社側が明確に誤報を認め、文部科学省「授業のすべてを必ず英語で行わなければならないということを意味するものではない」「紙面の内容は事実誤認であり大変遺憾」という回答を寄せたことは、今後この問題に取り組む上で大きな追い風になるでしょう。

正義は勝つ。
<m(_ _)m>

<追記>
以上は訂正記事を見る前に書いたものです。
毎日新聞1月26日付夕刊の訂正記事は以下の通りです。
かなり中途半端ですが、今後は単なる訂正ではなく「授業は英語で」の問題点を詳述した積極的な記事が必要でしょう。

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<追記2>
この問題について、寺島隆吉先生が温かい、かつ力のこもったコメントをされています。
感謝です。
http://pub.ne.jp/tacktaka/?entry_id=3444777

なお、今回の誤報問題で文部科学省の否定コメントを引き出した立役者は、大阪の高校にお勤めのPaul先生(仮名)です。(拍手)
http://blogs.yahoo.co.jp/formtrialdoor