希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

伊藤和夫『新英文解釈体系』(1964)を読む(9)

3月5日の埼玉県熊谷市での講演「英語教育の政策と方法を問う:競争から協同へ」を終え、数年ぶりに同市に住む母親に会い、東京で編集者と楽しい語らいの時間を過ごして、7日に和歌山に戻った。

お土産は、母親手作りの草餅。親はいくつになってもありがたい。

で、『新英文解釈体系』の連載再開。

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第1章から3章まではS+V+〔X+X〕という基本要素、およびその拡充だった。
3章の最後に付けられた一覧表には、基本要素の全体像が見事に体系化されていた。

屈折(格変化)がほとんどなくなってしまった英語では、語順が決定的に重要なのである。

そうした基本要素という原則の全体像を3章まで展開した後に、第4章で伊藤は例外規定である「倒置」へと移行する。伊藤は第4章の「この章の課題」で次のように述べている。

「原則ついての理解を深めるためには、例外について知ることもまた重要なので、この章では語順の一般原則すなわちS+V+〔X+X〕の配列に対する例外の形について考えることとする。」

参考までに、『英文解釈教室』(1977)Chapter 5 では次のように書かれている。

「原則的な語順は5型式の示すところであるが、『例外のない規則はない』のことわざもあるように、この大原則に対してもいくつかの重要な例外、すなわち語順の倒置がある。」

これが『ビジュアル英文解釈』(1988)Part Ⅱの41章では次のようになる。

「文の構成にどうしても必要なものなら、前になければあとにあるに決まっています。言葉はいつも1本の線で、前とあとの2方向しかないのですから。(2)〔In the house stood a man.〕はM+V+Sの構文。このように、文の語順が正常の語順と変わることを倒置と言います。」

このように、『体系』と『教室』とでは「原則」と「例外」という範疇で、統一的な体系を意識した記述をしている。

しかし、『ビジュアル』ではそうした論理学的ないし哲学的な用語は使わずに、「文の語順が正常の語順と変わることを倒置と言います」という風に、平易な表現を使っている。

その一方で、「言葉はいつも1本の線で、前とあとの2方向しかない」という伊藤が晩年まで追求し続けた英文の「線条性」へのこだわりが前面に押し出されている。

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例によって、論理的かつ体系的な叙述である。

第4章は全体が8節に分けられているが、伊藤はそれを大きく2つに区分している。

(1)副詞的修飾要素Mが文頭に出ることに伴い、V+Sの形になるもの:【1】-【4】と【6】
(2)Xの位置が通常の語順通りでないもの:【5】、【7】、【8】

以上8つの文構造について知るために、先に章末の一覧表を紹介しておこう。
左の一般原則と、右の例外とが見事に対比されている。

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記述例を示すために、一例として【7】X ( = O ) + S + V + 〔X〕を見てみよう。

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文の線条性と、頭からの直読直解を追求する伊藤にとって、この「倒置」という「例外」は、なんとしても克服しなければならない重要課題だった。
そのため、後の伊藤の本には見られないほど徹底的に考察し、類型化している。

それは、続く第5章の「同格」も同じである。

(つづく)