希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

歯止めがかからない英語の学力低下

英語の学力低下に歯止めがかからない。

2000年初頭の「学力低下論争」で明らかになったように、学力の経年変化については文部科学省はまともなデータを持っていない。

そこで、私は英語学力の経年変化を追求しておられる斉田智里先生(茨城大学→現在は横浜国立大学)の研究にずっと注目し、大修館書店の『英語教育』に連載した「英語教育時評」や、拙著『英語教育のポリティクス:競争から協同へ』(三友社出版、2009)などで、氏の研究成果を紹介してきた。

その斉田先生がこれまでの集大成ともいえる研究成果を博士論文「項目応答理論を用いた事後的等化法による英語学力の経年変化に関する研究」(2010;提出は2009年11月、未刊行)として発表された。
国会図書館経由でそのコピーを入手したので、斉田先生に敬意を表すると同時に、ごく一部を紹介したい。

斉田先生は「茨城県高等学校英語学力テストA」(高校1年生対象)を基礎資料に、項目応答理論(IRT :Item Response Theory)にもとづいて問題のレベルを均等化し、受験生が同一レベルの試験問題を解いたものとして、成績の経年変化を調べたのである。

対象は1995年度から2008年度までの14年間で、サンプル数は約20万人にも及ぶ。

その結果は恐るべきものだった。

14年間にわたって一貫して英語学力が低下しているのである。

その低下幅は、偏差値換算で7.4におよぶ。
斉田先生によれば、「2008年度に偏差値50であった成績中位者(1万人の受検者中5000番の生徒)が1995年のテストを受けるとすれば偏差値が42.6に下がり、順位も2704番下がって7704番相当の実力になるということである。」(53-54頁)

とりわけ、英語が週4時間から3時間に減らされた「平成十(2002)年改訂指導要領下での低下の程度が大きいことがわかる」。

皮肉なことに、文部科学省はこの2002年に、財界の意を受けて「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」を打ち出し、翌年から5ヵ年の「行動計画」を策定して、「中・高等学校を卒業したら英語でコミュニケーションができる」ことを目標に据えたのである。

その目標がどれほど根拠のないものであったのかは明らかであろう。
ちなみに、文科省は「戦略構想」と「行動計画」のまともな総括すらしていない。
この計画に賛同した英語教育者たちはどうお考えだろうか。

しかし、結果はこの通りである。

しかも、成績中位者(50パーセントタイル値)と下位者(25パーセントタイル値)の低下が著しい。
「平成十年改訂学習指導要領開始の2002年度以降は、特に成績中位層から下位層にかけての低下が大きくなり、成績上位層との格差が大きくなっていることが観察される」(55頁)のである。

英語嫌いの生徒も増え続けている。
ベネッセの調査では、中学校の英語は国語と並んで最も「好き」が少ない教科になってしまった。

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しかも、小学校に外国語活動を導入した結果、中学入学時点で英語に興味を失ってしまった子供が5割を超えているのである。

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英会話中心のいわゆる「コミュニケーション重視」に転換した後に、教育現場で何が起こってしまったのか。

これでもなお、「授業は英語で行うことを基本とする」などと実情を無視した方針を押し付けるつもりなのだろうか。

原発推進政策と同様に、もう嘘とペテンはまっぴらだ。
事実とデータに即して、冷静に、これからの外国語教育政策を考えよう。