希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

子どもの被曝線量の引き下げを!(3)

浜岡原発の停止菅直人首相が要請したことは、東京電力福島第一原発の事故から政府が少しは学んだことを示しています。

民主党政権の久しぶりの快挙と言ってよいでしょう。
まだ停止期間の限定、浜岡だけの限定など大きな制約はありますが、これを第一歩に、どんなに苦しくとも1基も原発のない地球を目指して行動を起こすべきときです。

自民党幹部や御用学者たちが、さっそく停止反対のキャンペーンを起こしています。
これらをよく注視し、いったい誰が利権と引き換えに国民の生命をかえりみようとしていないかをしっかりインプットしましょう。次の選挙で落とすために。
「日本はひとつに」なってはいけないのです。

そんな折に、子どもの被曝線量の引き下げを求める山内知也教授(神戸大)の申し入れ書(その3)が届きました。

文科省が打ち出した年間20ミリシーベルトという基準の違法性を日本国憲法の視点から鋭く追求しています。

私も経験しましたが、国家公務員は職に就くときに「日本国憲法を遵守すること」を誓約します。
ですから、文部科学省の皆さんは、自分の良心に従って山内教授の申入書を誠実に行動に移すべきです。

御用学者の対極にある山内さんのような科学者・技術者こそが、いま必要とされています。
亡くなった高木仁三郎さんや久米三四郎さんがそうだったように。彼らは高度の専門性に加え、広い視野と民衆の視点がありました。

蛇足ですが、私も10代後半にロケット技術者になろうと工業高専に進みました。しかし、ロケットが容易にミサイルに転用されてしまうことに悩み、技術者への道を放棄しました。10代特有の短絡的思考ではありましたが、科学技術を社会や政治との関係で論じなければならないことを熟考する日々でした。答を求めて経済学部に進み、社会科学を学んだことでようやく社会や物事の見方がわかりはじめました。

今回の原発問題が提起した事柄は、実は「英語教育」の領域でも同じです。
誰のための、何のための英語教育かを真剣に考えなければ、どんなに主観的には良心派でも、原発の「御用学者」と少しも変わりません。

拙著『英語教育のポリティクス』(2009)で明らかにしたように、現在の英語教育政策は主として日本経団連、つまり多国籍展開をとげる巨大企業の利害を反映したものであり、一握りの英語エリートの育成(それすら危ういのですが)と引き換えに、大量の子どもたちを切り捨てる差別的な政策です。

マクロな視点からこの基本構造を批判せずに、「こうすれば会話は上達する」といったハウツーにだけ目を奪われているならば、それは「幸せな奴隷」にすぎないのではないでしょうか。

山内さんの学問的良心に触発されて、長い「まえがき」を書いてしまいました。
ぜひ「申入書(3)」をお読みください。

児童・生徒の被ばく限度についての申入書(3)

                          2011年5月7日

文部科学省学校健康教育科 電話 03‐6734‐2695
FAX03‐6734‐3794
原子力安全委員会事務局 電話 03‐3581‐9948
FAX03‐3581‐9837

                   山内知也 神戸大学大学院海事科学研究科 教授


大学で放射線を教授している者として申し入れます。

先に2011年4月21日付け及び5月7日〔正しくは5日〕付けで申入書を提出いたしましたように、福島県内の児童と生徒の被ばく限度とされている年間20ミリシーベルトの基準は、子供が浴びる線量としては不当に高いものです。撤回して年1ミリシーベルトの基準を児童と生徒にはまず適用してください。

日本国憲法は、その第13条において、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と定めています。また、第14条では、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」とし、第25条では、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2 国は、すべての生活部面について、社会福祉社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と規定しています。

すなわち、福島県の児童と生徒には他の都道府県の子供らと等しく、社会福祉と公衆衛生のサービスを受ける権利があります。

放射線同位元素等による放射線障害の防止に関する法律は、その第一条によれば「放射性同位元素の使用、販売、賃貸、廃棄その他の取扱い、放射線発生装置の使用及び放射性同位元素によって汚染された物の廃棄その他の取扱いを規制することにより、これらによる放射線障害を防止し、公共の安全を確保することを目的」としてつくられています。この法律の中で、放射線同位元素の取扱の制限を定めた第三十一条によれば、「何人も、次の各号のいずれかに該当する者に放射性同位元素又は放射性同位元素によって汚染された物の取扱いをさせてはならない。一  十八歳未満の者」と定めています。

福島県の多くの学校を含む土壌汚染の高さは、この法律が定める「放射性同位元素によって汚染された物」に達しています。

可及的速やかに避難計画や除染計画を立案・実施し、児童や生徒の被ばく量が年1ミリシーベルトを超えない措置をとって下さい。

以上