希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

「国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策」の問題点

「教育のつどい2011」に出席のため、千葉に来ています。
本日は全体会で、いよいよ明日から外国語分科会が2日間にわたって開催されます。

冒頭で、僕は共同研究者として基調報告を行います。


  →過去ログ参照。

同検討会の主な活動目的は、2003~07年に実施した「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」の改訂です。
そのため、今回の「提言」も「行動計画」の路線ときわめて近い「英語スキル一辺倒主義」的な貧しい内容となっています。

「行動計画」の問題点については拙著『英語教育のポリティクス:競争から協同へ』(三友社出版、2009)を参照してください。

この「提言」に対しては、日本外国語教育改善協議会2011年度世話人会が批判的な意見を吉田研作座長に提出します。

僕はいま出張中のホテルにおり、細部に立ち入って「提言」を批判する時間的余裕はないのですが、取り急ぎメモ風にコメントしておきます。

・「外国語能力の向上に関する検討会」でありながら、「提言」は「国際共通語としての英語力向上のための・・・」であり、多言語主義が世界の基調となる中で、「外国語=英語」とするきわめて貧弱な外国語政策の提言となっている。

・公教育での到達度評価を外部試験にゆだね、中学卒業時に英検3級程度、高校卒業時に英検準2級~2級と設定している。
 学習指導要領と英検とは、たとえば語彙一つをとっても整合しない(指導要領では中学校の語彙数は1200語、英検3級は2100語、高3までの語彙数は約3000語、英検2級は約5100語)。生徒の到達度を外部試験に委ねることは教育課程を歪め、内容を貧弱なものにしてしまう。

・英語教員には英検準1級以上、TOEFL(iBT) 80点、TOEIC 730点以上を求め、教員採用試験でもスコアの活用を求めている。しかし、たとえばTOEICはビジネス用の英語力を測る試験であり、教員の能力・資質をこうした外部試験で安易に評価すべきではない。スコアが一人歩きして、教員への差別・査定につながることが懸念される。

・「学校は、学習到達目標をCAN-DOリストの形で設定・公表し、達成状況を把握」とあるが、会社の売上とは違い、公教育の学習到達目標はCAN-DOリスト的なもので安易に測れるものではない。
 たとえば、英検の合格率を目標に掲げるならば、授業の内容を英検対策的なものにし、クラブ指導や生活指導を放棄して、ひたすら英検対策にシフトすれば「目標」は達成されよう。しかし、もはやそれは公教育ではない。

・優秀な外国人教員の採用促進や民間の人材活用を提言しているが、危険きわまりない。教師は専門職であり、そのために厳格な免許法が適用されている。素人を安易に教壇に立たせるべきではない。

・「地域の戦略的な英語教育改善のための拠点校を形成」(250校程度)と提言しているが、公教育は一部の学校のみではなく、全体を底上げすべきである。

・そのために、クラスサイズの削減と教員の増員こそがカギであるが、「提言」はそうした条件整備についてはまったく言及していない。

その他、きわめて問題の多い提言なので、ぜひ全体を読み、各自で批判的に考え、対応していきましょう。