希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

「日本人の英語学習史から学ぶ」(2)

リクエストもありましたので,5月27日(日)に専修大学生田キャンパスで開催された日本英文学会第84回全国大会のシンポジウム「英語の学び方再考:オーラル・ヒストリーに学ぶ」で私が発表した「日本人の英語学習史から学ぶ」ハンドアウトを一部解説付きでお示しします。

初回分は以下をご覧ください。


私のプレゼンに先立ち,鳥飼玖美子先生が「オーラルヒストリーの概念と方法」をお話しされ,続いて戦後の代表的な同時通訳者たち(國弘正雄氏や西山千氏など)の英語学習法について報告されました。

それを受けて,私は戦前の「英語大家」たちの英語学習法を中心にお話ししました。

戦前の英語教育を論じる際に大事なことは,戦前の中等学校での英語教育は一種の「エリート教育」でしたから,英語のレベル,とりわけ英語教科書のレベルが非常に高かったという点をおさえることです。

下のグラフは,明治以降の代表的な教科書の各巻ごとの総語数を計量したものです(たいへんな労力がかかっています;泣)。

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詳細は,小篠敏明・江利川春雄編著(2004)『英語教科書の歴史的研究』(辞游社)をご覧いただくとして,結論的には,以下のことが言えます。

① Union ReadersやNew National Readersといった明治中期までの米国舶来の分厚い英語教科書(米国では国語教科書)を使っていた時代は膨大な英文にさらされていた。5巻で語彙数は1万を超えていた。それが明治期の高校入試の水準だった。

② 明治中期から日本人英学者の編集によるEFL型の語彙統制(のちに文法統制)のされた「易しい」英語教科書に移行した。それでも語彙数は約5000~6000語程度はあった。

③ 戦後の新制中学校・高校では,英語がエリート教育から「国民教育」へと転換した。それにともなって,教科書の平易化が格段に進んだ。現在の語彙数は,日本では中学・高校を合わせて2千語台となっている。こうした状況で,かつてのような「英語大家」が輩出されるのは難しい。

他方,現在の韓国や中国は,日本の明治期を思わせるような(中国ではそれを凌ぐような)分厚い教科書と大量の語彙で英語教育が進められている。

と,ここまで書いたら,本日の和歌山英語教育研究会に出向く時間となってしまいました。

続きはまた次回に。

See you!