希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

豊田實『日本英学史の研究』を学生と読む

猛暑の中,前期の授業が終わりました。

7月28日(土)の和歌山英語教育研究会でのシンポジウム「和歌山発!英語教育の未来」も盛会のうちに終了しました。
登壇いただいた4氏と,難しいコーディネーター役を完璧にこなした戸川指導主事に感謝します。
それと,受付などで活躍いただいた学生の皆さんにも。

さて,夏休みといいながらも自主学習会は続きます。

毎回,各自の研究成果を持ち寄り,相互批評しあうと同時に,豊田實の名著『日本英学史の研究』岩波書店,1939)を1章ずつ読んでいくことにしました。
私が決めたと言うよりも,学生の希望です。

約800ページの大著ですが,これを読まずして日本の英語教育史(さらに言えば,日本の英語教育)は語れません。

第一部は語学,第二部は文学で,全体は10章。
この本では,まだ「英語教育」という分野は確立されていません。

ただし,1928年には私家版ながら枩田與惣之助の『英語教授法集成』が出ており,英語教育史的な論述も含まれていました。

1936年には櫻井役の『日本英語教育史稿』(敝文館),1938年には赤祖父茂徳編『英語教授法書誌』(英語教授研究所)も出ました。

この他,荒木伊兵衛『日本英語学書志』(創元社、1931),竹村覚『日本英学発達史』(研究社、1933),重久篤太郎『日本近世英学史』(教育図書、1941)などもこの時代の成果です。

また,英語辞書史の先駆的な研究書である岩崎克己『柴田昌吉伝』(私家版、1935)も忘れてはなりません。

そうした1930年代前後の「英学研究第1期」において,本書がどういう位置を占めるかをまず論じなければなりません。

1冊を論じるには,関係文献との比較検討が最低限必要です。

さて,『日本英学史の研究』の第1部「語学」の第1章は「英和及び和英辞書の発達(明治二十一年まで)」です。

全体が167ページに及び,本書でも最もスペースを割いている章です。

図版も豊富で,僕は院生のころワクワクしながら読んだことを覚えています。

ただ,日本で初めての本格的な英語辞書史ですので,書誌的・外面的な記述が中心になるのはやむを得ないでしょう。

しかし,当然ながら,その後の英語辞書史研究は大きく前進しています。

まずは豊田實の叙述を徹底的に読みこなすことが必要ですが,その上で,少なくとも以下の研究などで補強しながら読み進めていく必要があるでしょう。

学生たちには,それらをふまえたレポートを期待しています。

○ 永嶋大典『蘭和・英和辞書発達史』(講談社、1970)

大阪女子大学附属図書館編『大阪女子大学蔵 日本英学資料解題』(1962)
  (さらには,『大阪女子大学蘭学英学資料選』1991)

○ 小島義郎の『英語辞書の変遷―英・米・日本を併せ見て』(研究社、1999)

○ 早川勇『辞書編纂のダイナミズム―ジョンソン、ウェブスターと日本』(辞游社、2001)
  (さらには,Methods of Plagiarism : A History of English-Japanese Lexicography.辞游社、2001)

○ 早川勇『日本の英語辞書と編纂者』(春風社、2006)

特に,永嶋(1970)と早川(2006)は必読でしょう。

いずれにせよ,学生たちが基本図書を徹底的に読みたいと言いだしたことは歓迎すべきことです。

いい汗をかきましょう。