希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

なぜ教育予算を増やさない

オリンピックで浮かれているドサクサに,消費税増税法案が成立してしまった。

民主,自民,公明の野合の結果だ。
社会保障については先送りされ,早くも自民サイドからは「公共事業の大幅増」の大合唱が起こっている。
「人よりコンクリート」の昔の歌だ。

消費税論議で決定的に欠けていた点がある。
「消費税を教育にまわす」という発想が,この国のほとんどの政治家たちにはないのである。

こうして,何が起こったか。

経済協力開発機構OECD)の「図表で見る教育2011」によれば,日本は公的な教育投資が貧弱で,教員と保護者に過重な負担がかかっているのである。


この問題については,9月発売の『英語教育』10月増刊号(大修館書店)の「英語教育日誌 2011」にも書いたのだが,このブログの8月10日のコメント欄に his*ak*hi*o25*910 さんが同じ問題について述べてくださっているので,あらためてここで指摘しておきたい。

2008年の教育への公的支出の対GDP比は,加盟国平均の5.0%に対して日本は3.3%で,31カ国中で2年連続最下位となった。

大学などの高等教育機関への公的支出はわずか0.5%で,OECD平均の半分にすぎない。
これで「国際競争力をつけろ」などと,よくも言えたものである。

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教育費全体に占める日本の私費負担率は34%で,ワースト3位。
特に大学などの高等教育での私費負担率は67%に達し,OECD平均31%の2倍以上である。
こうして,経済的に困難な家庭の子どもが大学教育から排除される構造ができあがっている。

日本の小学校の学級規模は28人で,加盟国平均の21人を大きく上回っている。
最大40人学級だなどと言っても,欧米の人たちは信じてくれない。
あまりに世界の非常識だからだ。

2009年の日本の小学校教員の勤務時間は年間1,899時間で,比較可能な21カ国のうち2番目に長時間だった。

ただし授業時間は707時間で,加盟国の平均を72時間下回り,授業以外の「雑用」に追われている実態が明らかになった。

長時間労働を強いられているが,子どもたちと向き合う時間は乏しいのである。

教員の給与水準は,2005年を100とすると,2009年に加盟国の平均は107に上昇したが,日本は95に低下した。
さらに今年,国立大の多くで給与の10%近いカットが強行された。

OECDの調査担当者は「日本は仕事の負担は重いが,報酬は恵まれていない。優秀な人材が集まり教員の質を上げるような対策が必要」と分析している。

大津市の「いじめ問題」を契機に,教員を非難する声が高まっている。
しかし,教師の過酷な勤務実態や,大規模クラスの問題,競争と未来への閉塞感で子どもたちが息苦しい思いをしていることを忘れてはならない。

日本の未来は,子どもたちの教育にかかっている。

未来への最大の投資である教育予算が,日本は恥ずかしいほど貧弱だ。
それを放置したまま増税だけを進めて,いったいどんな未来を作ろうとしているのか。