希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

全国の英語教育実践から学ぶ

8月17日から神戸市で開催されている「教育のつどい」に出席しています。

17日の全体会に続き、18日からは外国語分科会が開催されています。

都道府県から選りすぐられた内容の濃い発表が続き、大いに学ぶことができました。

発表者に共通するのは、英語教育をめぐるスキル主義・エリート主義に対して、生徒の心に残るメッセージを届けたいとする「人格教育」の視点と、「全員を伸ばす」という視点が鮮明なことです。

まず、私の基調提案に続き、「外国語教育の現状と在り方」では3本の発表がありました。

広島県(中学)と長野県(高校)、そしてグループ討論で出た意見に共通していたのは、新指導要領による語彙の増加で未習単語が急増し、言語材料の消化に困難をきたしている現状が報告されたことです。

教科書のノルマに追いつかない「忙しい授業」になり、新たな学力格差が生まれることが懸念されます。
なお、すでに新課程が先行実施されている小学校では、教員の4割が学力格差拡大を指摘しています。

いわゆる「ゆとり教育」の反動で、「詰め込み」になっているのです。

これらをどう克服し、生徒の興味と人間性を高めるような教材(独自教材・投げ込み教材を含む)を選定し、豊かで内容ある指導をどう行うかが重要な課題になっています。

続いて、教科書の出版関係者から高校英語教科書の発行状況と課題が報告されました。

注目されたのは、英語が苦手な生徒を対象とした「コミュニケーション英語基礎」の教科書はたった1冊しか発行されていないことです。

いわば「制度化された習熟度別授業」とでもいうべき「コミュニケーション英語基礎」への学校現場からの忌避感が現れた形です。

無理な教科目構成が、早くも破綻したと言えるのではないでしょうか。

また、デジタル教材時代が到来しても、生徒と教員との人間的な関わりが大切であることが指摘されました。

「教育がパソコンに乗っ取られないように」というコメントには大いに共感しました。

続いて、「小学校外国語活動の現状と問題点」について千葉の教員から報告されました。

ゲーム本位やスキル主義では子どもが乗ってこない。子どもの知的好奇心を刺激する指導が大切、学校間の内容格差が著しいとの報告を受け、フロアからの意見も活発でした。

小学校外国語活動をめぐる政策の最大の矛盾は、文字指導の扱いです。
3年生では国語科で訓令式ローマ字を教え、4年生は空白期間、そして5・6年の外国語活動ででヘボン式スペリングに接します。

これでは児童が混乱するのも当然です。
縦割り行政の弊害といえるでしょう。

また、外国語活動では「文字は教えてはならない」という誤解も根強いものがあります。
(指導要領にはそんなふうには書いていないのですが。)

子どもたちに芽ばえた文字への興味を無理なく伸ばす指導が大切なのではないでしょうか。
それが、中学英語への円滑な橋渡しに必要です。

午後は、「教材の創造的な扱いと自主編制」に関して5本の発表がありました。

どの発表からも、英語のスキルのみならず、子どもたちの人格形成につながる授業を進めていることが伝わってきました。

内容豊かで感動的な英語教材を通じて、平和、人権、人間尊重のメッセージを伝える。
それによって、子どもたちの世界認識が深まり、人間性が高まり、内的動機付けとなって英語の力(スキル)も付くのです。

初日の最後には、「自己表現する力をどう伸ばすか」に関する東京の中学校教員からの発表がありました。

あらためて感じたのは、自己表現活動の威力です。

誰もが、自分を知って欲しい、わかって欲しいと思っています。
自分の好きなことなら、教師にも積極的に質問し、何とかスピーチしようとします。
そういった潜在的な意欲を形にするのが「自己表現活動」です。

討論では、オーディエンスの「聞く活動」も取り入れると、さらに学びが深まるという意見が出されました。
それによって、自己表現から相手理解へ進み、相互理解活動へと発展するのです。

夜の懇親会も楽しい限りでした。
ネットワークの広がりが嬉しいですね。

さて、これからホテルを出て2日目の外国語分科会に出かけます。

午前中は協同学習に関する発表が続きます。

実に楽しみです!