9月29日は、和歌山大と福井大の連携によるフォーラム「成長し続ける教師を育てる-制度と支援のあり方を考える」が開催され、たいへん充実した1日でした。
生涯にわたって学び続ける教師を育てるためには、大学における教員養成は4年間だけで終わり、あとは教育委員会や学校現場に任せるという旧来の発想ではダメで、卒業後も引き続き教員の学びをサポートできる体制づくりが必要だと痛感しました。
そのためには、大学院における初任者を含む教員の持続的養成や再教育の仕組みを組み込んだ大学院改革が急務であると思いました。
さて、「外国語教育の4目的」の50年に関する連載の最終回です。
2001年2月に改訂された第3次「外国語教育の4目的」の改訂の経緯については、教組教研の共同研究者として改訂に従事した内野信幸氏(日教組)と大浦暁生氏(全教他)による「新4目的整理との意義と展望」(『新英語教育』2001年6月号、pp.7-9)に詳しく紹介されています。
それによれば、1970年改定の第2次「4目的」の改訂に踏み切った理由は、「労働を基礎として、思考と言語との密接な結びつきを理解する」(第2目的)のように、「理念を重視するあまり、特定の考え方に傾いて目的を狭めてしまったのではないか」といった疑問や、「一部の学説や思想で外国語教育の目的すべてを規定することにはむりがある」、「文章表現に対する配慮も不十分だ」といった反省からでした。
こうして、新「4目的」の原案は2000年1月の2つの教育研究集会に同一文案で提示されました。
その段階では以下の案でした。
その段階では以下の案でした。
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【外国語教育の四目的】(第3次の原案 2000年)
1 外国語の学習をとおして、世界平和、民族独立、民主主義、社会進歩、人権擁護、環境保護のために、世界の人びととの理解、交流、連帯を進める。
2 労働と生活を基礎として、言語にかかわる思考や感性を育てる。
3 外国語と日本語との違いを理解することによって、日本語への認識を深める。
4 以上をふまえながら、外国語を使う能力の基礎を養う。
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第1目的に関しては、「民族独立」は21世紀の時代状況に合わないので、「民族自立」か「民族共生」にすべきだとの意見が出され、後者に落ち着きました。
「社会進歩」については、文明の発達が環境の破壊を招いている面もあるから省くべきだとの意見が多かったようです。
1962年の第1次「4目的」の時代には、「社会進歩」といえば民主主義の徹底であり、また資本主義から社会主義への移行こそが進歩と考えた人も多かったので、半世紀を経た社会認識の変化が反映しているようです。
第2目的については、特に議論が集中しました。
「労働」は「生活」に含まれるので並列には置くべきでないとか、「実生活」でいい、という意見もあったとのことです。
その反面、「労働」を重視する声も依然として強く、けっきょく「労働と生活を基礎として」に落ち着きました。
「労働」は「生活」に含まれるので並列には置くべきでないとか、「実生活」でいい、という意見もあったとのことです。
その反面、「労働」を重視する声も依然として強く、けっきょく「労働と生活を基礎として」に落ち着きました。
後半の「言語にかかわる」は不評で、これでは外国語教育固有も目的にならないという指摘がありました。
他方、言語は思考だけでなく「感性」にも関わるという原案は支持を集めました。
その結果、第2目的は「労働と生活を基礎として、外国語の学習で養うことができる思考や感性を育てる。」となりました。
他方、言語は思考だけでなく「感性」にも関わるという原案は支持を集めました。
その結果、第2目的は「労働と生活を基礎として、外国語の学習で養うことができる思考や感性を育てる。」となりました。
この第2目的は、1970年改訂版の「労働を基礎として、思考と言語との密接な結びつきを理解する。」と比べると格段に向上したと思われます。
第3目的については、「外国語の構造上の特徴と日本語のそれとの違いを知ることによって」という1970年版の2つの弱点が克服されました。
ひとつは、構造言語学の考え方が反映されていたために、たとえば「戦死した」を英語ではHe was killed in the war.というような、文構造ではなく、「発想の違い」に関わる問題などが抜け落ちてしまったという点でです。
また、外国語と日本語との違いだけでなく、共通点にも着目したいという意見が出され、最終的には「外国語と日本語とを比較して、日本語への認識を深める。」とスッキリしました。
第4目的については、「外国語を使う能力」は「外国語の学力」ではないかという意見も出ましたが、ここは実際に使える能力を強調しておき、学力は4目的全体の実践で身につく力としたい、という意見が大勢を占めました。
なお、「能力の基礎を養う」は、基礎から積み上げる系統的学習を示唆しているということです。
以上のような改訂を経て確定した2001年の第3次「外国語教育の4目的」は、実践の指針として、さらにパワーアップしました。再度、掲げておきましょう。
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【外国語教育の四目的】(第3次 2001年)
1 外国語の学習をとおして、世界平和、民族共生、民主主義、人権擁護、環境保護のために、世界の人びととの理解、交流、連帯を進める。
2 労働と生活を基礎として、外国語の学習で養うことができる思考や感性を育てる。
3 外国語と日本語とを比較して、日本語への認識を深める。
4 以上をふまえながら、外国語を使う能力の基礎を養う。
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1962年に始まる「4目的」は、半世紀に及ぶ英語教員らの理論と実践の積み重ねの中から生まれ、議論を経て改訂されてきました。
2001年改訂の中心となった内野氏と大浦氏は、自らが改訂の対象とした第2次「4目的」(1970)の歴史的意義を次のように総括し、その延長上に第3次「4目的」を位置づけておられます。
「新4目的の成立まで31年間にわたって現場教師の実践の拠り所となってきたこの〔1970年の〕4目的には、本質的に少なくとも2つのすぐれた点が見られる。1つは外国語教育を国語教育および言語教育と関連させたばかりか、国際的な平和と連帯を見すえて教育そのものと関わられている視野の広さ。いま1つは単に外国語を使う実際的な技能にとどまらず、言語を思考と結びつけて、外国語教育と内面的な知性の発達と関連づけている奥行きの深さだ。
この両者は有機的に関わり合い、総じて確かな学力と豊かな人間性をはぐくむ外国語教育を目指している。とくに学習指導要領が技能主義的な「コミュニケーション能力の育成」にますますかたよって、言葉でものを感じたり考えたりする認識の面がすっぽり抜け落ちている現在、4目的が示してきたこの方向はきわめて重要と言えよう。新4目的が本質的にこの線を受け継ぎ、それを発展させようとしていることは言うまでもない。」
この両者は有機的に関わり合い、総じて確かな学力と豊かな人間性をはぐくむ外国語教育を目指している。とくに学習指導要領が技能主義的な「コミュニケーション能力の育成」にますますかたよって、言葉でものを感じたり考えたりする認識の面がすっぽり抜け落ちている現在、4目的が示してきたこの方向はきわめて重要と言えよう。新4目的が本質的にこの線を受け継ぎ、それを発展させようとしていることは言うまでもない。」
「外国語教育の4目的」は、教研集会に集う日本の先進的な英語教師たちが実践と討論を積み重ねることによって練り上げてきた文書であり、外国語教育の指針となるものです。
本年2012年は、1962年に最初の「4目的」が確立されて50年目の節目に当たる年です。
実践を通じて「4目的」を検証しつつ、次なる時代の目的論の確立のために議論を続けていきたいものです。
(完)