希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

日本人の英単語学習史

11月17日は和歌山英語教育研究会で、竹下厚志先生(神戸大学附属中等教育学校)に「発信力を中心とした高校英語授業のビフォーアフター」と題したすばらしいご講演を拝聴しました。

その感動も冷めないうちに、関西空港から豪雨の羽田空港へ。

で、本日18日は日本英語教育史学会の論文審査委員会と研究例会です。

微妙に時間が空いたので、東京神田のホテルでこの記事を書いています。

日本人はどうやって英単語を学んできたのか。

そこには壮絶なドラマがありました。

さわりの部分だけちょっと書きます。

文字体系も発音も日本語とまったく異なり、しかも日常的に使う必要がほとんどない英単語。

それをどう覚えるか?

書くのです。ひたすら書いて、覚えて、忘れてはまた書いて覚えるのです。

下の写真は幕末~明治初期と思われる毛筆書きの英単語帳。
ABC順になっており、辞書がきわめて高価で数少なかったこの時代、自分で「My辞書」を作っていたようです。

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続いて、1940年代の商業学校生徒の英単語帳。

書いています。ひたすら、書いて覚えようとしています。
けなげな少年の顔が浮かぶようです。
この生徒が、戦争で命を落とさなかったことを祈ります。

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下の写真は、僕が神戸の予備校で教えていたときの生徒が使った(というよりは、使いつぶした)英単語帳です。

彼は、本当に努力家でした。

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戦前も英語の音声指導に力を入れていました。

下のレコードは「書取」つまりdictation用の教材です。

旧制高校などの入試にもdictationが出されていましたから、こうして音声を聴きながら英語を綴ったのでした。

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明治末期からは英単語カードも発売されていました。
表が英語で、裏が和訳と例文。

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戦後になると、カラフルな絵まで付けられるようになりました。
発音も、戦前のイギリス式からアメリカ式に転換。

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ちなみに、日本人は絵を使って単語を覚えるのが好きなようで、そうした「絵単語」本は明治初期からありました。
いつかまた紹介しましょう。

日本人はなぜこうまで必死に英単語を覚えるのか。

やはり「受験があるから」という側面を無視しては空論になるでしょう。

そこで紹介したいのが、『クラウン 受験英語辞典』(三省堂、2000年)。
古藤晃先生のたいへんな労作です。

単語がABC順に排列されているのは一般の辞書と同じですが、どこの大学の入試問題に、どのような形式で出題されたのかがびっしりと掲載されている、入試英単語の一大データベースです。

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たかが単語、されど単語。

いまもむかしも、英語学習の土台作りは、コツコツと単語を覚えていく「努力」だったのです。